キミと歌う恋の歌
「これ、仮の曲できた」
次の日の昼休み、お弁当を早く食べ終わって後ろのソウジに数学のわからなかった問題を聞いている途中で、突然ソウジが言い放った。
私に対して、ヘッドフォンを繋げたスマホを差し出している。
「え、あ、早い」
手を止めて、思わずそう言うと、ソウジはヘッドフォンを押し付けてきた。
「聞け」
「ああ、は、はい」
勢いに押され言われるがままヘッドフォンを耳につけると、ソウジがスマホを操作し、曲が流れ始めた。
すでにギター、ベース、ドラム、キーボードの音が入っている。
ソウジの好みがちなロック調の曲だ。
激しいドラムの打ち込みや、ギターとベースのソロが印象的だった。
一瞬で駆け抜けていくような疾走感のある曲で、私は聴き終わった後もしばらく口が聞けなかった。
「なんか言えよ」
呆然としてるところに、ソウジが不満げに口を尖らせたところでようやく言葉を発せた。
「めちゃくちゃかっこいい。レオの作る曲とはまた全然違くてびっくりしちゃった。も、もう一回聞いてもいい?」
「まあ別にいいけど」
素直な感想を述べたつもりだったのに、ソウジはそっぽを向いてそう言った。
気恥ずかしいのかもしれない。
細かいところに気がつかないうちにさっきは聴き終わってしまったので、次はしっかり曲に没頭した。
うん、やっぱり好きだ。
聴き終わって改めてそう思った。
この曲に歌詞を乗せて歌いたい。
「曲に合うように歌詞考えてみる、ね」
ヘッドフォンを外してそう言うと、「まあ、別に無理して今作らなくてもいいけど」とソウジはやっぱりそっぽを向いたままで言った。
まあ別にがソウジな口癖なのかもしれない。
指摘したら怒られそうだけど。
「この音源どうやって作ってるの?全部楽器の音が入ってるけどみんなで演奏したわけじゃないよね?」
「パソコンのソフトで作った」
「そんなのできるの?すごい」
「慣れれば誰だってできるだろ」
「そんなものかな。私調べ物すらできないもんな」
「年寄りかよ」
笑いを狙ったつもりはなかったが、ソウジは珍しくフッと笑った。
教室で笑顔を見せるのは初めてくらいじゃないだろうか。
驚いていると、「あ、俺今日バイトだから」と、ヘッドフォンを片付けながらソウジが言った。
「そうなんだ。大変だね、テスト前まで」
「来週と再来週無理言って休ませてもらったからな」
そう言ってため息をついたソウジに、思い切って聞いてみようと決めた。
「…あの、」
それだけ言うと、ソウジは私の目をまっすぐ見る。
「なんだよ」
「あ、えっと、その、あー…な、なんでもない」
「だるい、さっさと言えよ」
ソウジに見つめられると、自分が今から言わんとしていることが突拍子もない現実味もない話に思えてきて、取りやめようとしたが、ソウジはそれを許さなかった。
じろりと睨みつけられて、思わず身がすくむ。
「ー…あの、バイトってさ、ソウジはどうやって探したの?」
「は?」
「い、いやちょっと気になっただけっていうか」
「別に何もまだ言ってねえだろ」
ソウジに凄まれると怖くてつい言い訳して自己防衛に走ってしまう。
「バイトしてえの?」
正解を言われてしまった。
「む、無理だよね。私なんか、バイトしたってきっと迷惑かけるだけだし」
何も言われていないうちに自分から否定的な言葉を発してしまうのは私の悪い癖だ。
それはもう十分わかっている。
だけど、長年染み付いてしまった癖は三日三晩意識したところで克服できるわけじゃない。
今も挙動不審に否定に走った私をソウジが冷めた目で見ていることに気づいている。
「…ごめんなさい」
何も言わないソウジにとりあえず謝ってしまう。
すると、ソウジは大きくて深いため息をひとつついた。
「一旦落ち着けよ。何も言ってねえだろ、まだ」
そう、まだ言ってないだけだ。
まだ。
「別にバイトしたけりゃすればいいだろ」
「で、でも私にできるかどうか」
「まずやってみねえとやれるかどうかもわかんねえだろ。アホか」
鋭い言葉にうっと無意識に胸を押さえる。
「で、どうなんだよ。
バイトしてえの?」
自分の口から言わないときっと彼は許してくれない。
察してもらおうは甘い考えだ。
「や、やってみたい、と思ってる。
だけど何からやったらいいかわからなくて」
言葉にすると不思議とスッキリするものだ。
ずっと思っていた。
前とは違って欲しいものを身構えずに買えるくらいのお金は手にしたけど、やっぱりそれを湯水のように使うのは何だか違う気がする。
自分のやりたいことや欲しいもののために自分で稼いだお金を使いたい。
それと、単純に私はアルバイトというものに憧れがあった。
これからの人生、もう自分のやりたいことを諦めたくない。
「…何かやりたいバイトあんの?」
おもむろにソウジが尋ねた。
「いや、これっていうのはまだないの。でも私バカだし、あんまり頭を使わないのができればいいなって…。ソウジは何やってるの?」
「俺はガソリンスタンドだけど、多分お前には向いてねえな」
「そ、そうだよね…」
「別に役に立たないって言ってるわけじゃねえよ。力仕事が多いからな」
「ああ…なるほど」
「…俺は今のバイト先の店長がタカの知り合いで、その紹介で入ったんだ。
まあ求人は探せばいくらでもあると思うけど、とりあえず知り合いとかに情報収集してみればいいんじゃねーの?
何やってるか聞くだけでも参考になると思うし」
「え、でもタカさんもメルもレオもバイトしてない」
「別にお前の知り合いは俺らだけじゃねーだろ」
そう言ってソウジは顎を傾けてどこかを差して見せた。
差している方を見ると、結城さんたちが集まってご飯を食べていた。
次の日の昼休み、お弁当を早く食べ終わって後ろのソウジに数学のわからなかった問題を聞いている途中で、突然ソウジが言い放った。
私に対して、ヘッドフォンを繋げたスマホを差し出している。
「え、あ、早い」
手を止めて、思わずそう言うと、ソウジはヘッドフォンを押し付けてきた。
「聞け」
「ああ、は、はい」
勢いに押され言われるがままヘッドフォンを耳につけると、ソウジがスマホを操作し、曲が流れ始めた。
すでにギター、ベース、ドラム、キーボードの音が入っている。
ソウジの好みがちなロック調の曲だ。
激しいドラムの打ち込みや、ギターとベースのソロが印象的だった。
一瞬で駆け抜けていくような疾走感のある曲で、私は聴き終わった後もしばらく口が聞けなかった。
「なんか言えよ」
呆然としてるところに、ソウジが不満げに口を尖らせたところでようやく言葉を発せた。
「めちゃくちゃかっこいい。レオの作る曲とはまた全然違くてびっくりしちゃった。も、もう一回聞いてもいい?」
「まあ別にいいけど」
素直な感想を述べたつもりだったのに、ソウジはそっぽを向いてそう言った。
気恥ずかしいのかもしれない。
細かいところに気がつかないうちにさっきは聴き終わってしまったので、次はしっかり曲に没頭した。
うん、やっぱり好きだ。
聴き終わって改めてそう思った。
この曲に歌詞を乗せて歌いたい。
「曲に合うように歌詞考えてみる、ね」
ヘッドフォンを外してそう言うと、「まあ、別に無理して今作らなくてもいいけど」とソウジはやっぱりそっぽを向いたままで言った。
まあ別にがソウジな口癖なのかもしれない。
指摘したら怒られそうだけど。
「この音源どうやって作ってるの?全部楽器の音が入ってるけどみんなで演奏したわけじゃないよね?」
「パソコンのソフトで作った」
「そんなのできるの?すごい」
「慣れれば誰だってできるだろ」
「そんなものかな。私調べ物すらできないもんな」
「年寄りかよ」
笑いを狙ったつもりはなかったが、ソウジは珍しくフッと笑った。
教室で笑顔を見せるのは初めてくらいじゃないだろうか。
驚いていると、「あ、俺今日バイトだから」と、ヘッドフォンを片付けながらソウジが言った。
「そうなんだ。大変だね、テスト前まで」
「来週と再来週無理言って休ませてもらったからな」
そう言ってため息をついたソウジに、思い切って聞いてみようと決めた。
「…あの、」
それだけ言うと、ソウジは私の目をまっすぐ見る。
「なんだよ」
「あ、えっと、その、あー…な、なんでもない」
「だるい、さっさと言えよ」
ソウジに見つめられると、自分が今から言わんとしていることが突拍子もない現実味もない話に思えてきて、取りやめようとしたが、ソウジはそれを許さなかった。
じろりと睨みつけられて、思わず身がすくむ。
「ー…あの、バイトってさ、ソウジはどうやって探したの?」
「は?」
「い、いやちょっと気になっただけっていうか」
「別に何もまだ言ってねえだろ」
ソウジに凄まれると怖くてつい言い訳して自己防衛に走ってしまう。
「バイトしてえの?」
正解を言われてしまった。
「む、無理だよね。私なんか、バイトしたってきっと迷惑かけるだけだし」
何も言われていないうちに自分から否定的な言葉を発してしまうのは私の悪い癖だ。
それはもう十分わかっている。
だけど、長年染み付いてしまった癖は三日三晩意識したところで克服できるわけじゃない。
今も挙動不審に否定に走った私をソウジが冷めた目で見ていることに気づいている。
「…ごめんなさい」
何も言わないソウジにとりあえず謝ってしまう。
すると、ソウジは大きくて深いため息をひとつついた。
「一旦落ち着けよ。何も言ってねえだろ、まだ」
そう、まだ言ってないだけだ。
まだ。
「別にバイトしたけりゃすればいいだろ」
「で、でも私にできるかどうか」
「まずやってみねえとやれるかどうかもわかんねえだろ。アホか」
鋭い言葉にうっと無意識に胸を押さえる。
「で、どうなんだよ。
バイトしてえの?」
自分の口から言わないときっと彼は許してくれない。
察してもらおうは甘い考えだ。
「や、やってみたい、と思ってる。
だけど何からやったらいいかわからなくて」
言葉にすると不思議とスッキリするものだ。
ずっと思っていた。
前とは違って欲しいものを身構えずに買えるくらいのお金は手にしたけど、やっぱりそれを湯水のように使うのは何だか違う気がする。
自分のやりたいことや欲しいもののために自分で稼いだお金を使いたい。
それと、単純に私はアルバイトというものに憧れがあった。
これからの人生、もう自分のやりたいことを諦めたくない。
「…何かやりたいバイトあんの?」
おもむろにソウジが尋ねた。
「いや、これっていうのはまだないの。でも私バカだし、あんまり頭を使わないのができればいいなって…。ソウジは何やってるの?」
「俺はガソリンスタンドだけど、多分お前には向いてねえな」
「そ、そうだよね…」
「別に役に立たないって言ってるわけじゃねえよ。力仕事が多いからな」
「ああ…なるほど」
「…俺は今のバイト先の店長がタカの知り合いで、その紹介で入ったんだ。
まあ求人は探せばいくらでもあると思うけど、とりあえず知り合いとかに情報収集してみればいいんじゃねーの?
何やってるか聞くだけでも参考になると思うし」
「え、でもタカさんもメルもレオもバイトしてない」
「別にお前の知り合いは俺らだけじゃねーだろ」
そう言ってソウジは顎を傾けてどこかを差して見せた。
差している方を見ると、結城さんたちが集まってご飯を食べていた。