キミと歌う恋の歌
メルは次の日も、その次の日も学校を休んだ。

何度もメールを送ったが返ってこないし、毎日家を訪ねているタカさんに私も行きたいと訴えたが、返事を濁された。

やっぱり私に対して怒っているのだろうかと思うと気が気じゃなくて、歌詞なんて1フレーズも思いつかないし、勉強していてもすぐに手が止まってしまう。

レオの知り合いのアドバイスのおかげで少しばかり勉強が楽しくなっていたのだけど、今はメルはどうしているだろうか、とかどうやったら許してもらえるだろうかという考えが頭を邪魔する。


「今日も来ないみたいだなー」


駅のホームでポツリとレオが声を漏らした。

私は返事ができなくて、隣のソウジも何も言わずに無表情で前を見ている。

もう3人での登校も3日目だ。

いつも5人でいる時、話題を提供してくれるのはメルで明るく盛り上げてくれるのはタカさんなので酷く悲しい雰囲気だ。

日中や夜だとレオも喋るのだが、朝はどうにも調子が乗らないようだ。


「タカもさすがにお手上げみたいだな。部屋からも出てこないんだと」


レオがスマホを片手に深いため息をついてそう言った。


タカさんは毎朝メルの家に行って登校するよう説得しているらしいが、うまくいっていないらしい。

タカさんだけが行って私たちが行かないのは側から見ると薄情のように見えるだろう。
私もそう思った。
みんなで行けばいいのでは、と打診してみたが、全員で押しかけていい結果になったことが一度もないと一蹴された。

『メルはタカの言うことしか聞かないからな』

面倒くさそうにそう言っていた。


確かにそれはしばらく同じ時を過ごしていても思っていた。


「なんで、メルはタカさんの言うことは聞くの、かな」


心の中で唱えたつもりだった言葉が口から出ていたことに気づいた。

両隣にいたレオとソウジが不審げな顔を私に向けている。


「え、な、何?」


「なんでって、何が?」


「い、いや、だってメルにとってはタカさんもレオも同じ幼馴染でしょ?それにソウジとだって仲良いし。なんでタカさんだけ特別扱い…っていうか」


「好きだからだろ」


「…え?」


「いやだから、メルがタカを好きだからだろ」


何を当然のことを改めて言っているんだとでも言いたげな表情でレオが同じ言葉を繰り返した。

そのセリフが私の脳内を駆け巡る。


「え、そ、それはあの、恋愛的な意味で?」


「他に何があるんだよ」


心底呆れ返った様子のソウジが冷たく言った。


「そ、そうだったんだ…」


今すぐ叫び出したいほどの驚きが体中を駆け巡っていた。


「気づいてなかったのか?」


「いや、私はそういうの疎くて」


「疎いってレベルじゃねえだろ。あんなの見たらすぐわかるだろ」


「俺らとの扱いの差違いすぎるよなー」


レオとソウジが口々に言い合う。


「この前なんて俺があいつの髪が乱れてたから直したら、触るなって結構本気でキレられたのに、そのすぐ後にタカが同じことしたらありがとうだぜ」


「そんなの気にするほどのことでもないだろ。先週タカがわからない数学の問題解説してあげろってブチギレられたわ」


「ほんっとあいつタカしか見えてないよな」


文句を言い合っているのにどこかレオとソウジはそのエピソードを愛おしそうに話す。
口では悪く言いながらも、メルのことを心から大事に思っているのだろう。


「メルのこと大好きなんだね」


思わず微笑ましくてそう言うと、2人は声をぴたりとそろえて「はあ?」と言った。

それがまた可笑しかった。


「というか、それ私聞いちゃってよかったのかな?メル嫌だったんじゃ」


「いやアイがまず気付いてなかったことにびっくりしてるから大丈夫だろ」


「そ、そっか。メルはずっとタカさんが好きなの?」


「出会ってすぐからだから、もう6、7年だなー」


「付き合ってるわけではないの?」


「付き合ってはないな。タカもメルの気持ちには気付いてるけど、妹みたいにしか思ってないし」


私がタカさんなら絶対に恋人という名前のつく関係性を作って離さないだろう。
あんなに可愛いメルから好かれていて、平常心でいられるのがまずすごい。

メルはどうしてタカさんのことを好きになったんだろう。
どんなところが好きなんだろう。


タカさんのいいところなんて考える時間も必要ないくらいたくさん思いつくけど、きっとメルだけのそれがあるはずだ。


仲直りできたら、それを聞いてもいいだろうか。


まだ誰のことも好きになったことがないし、もちろん好きになられたこともない恋愛に無関係な私に教えて欲しい。


メルの一途な恋を。




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