キミと歌う恋の歌
一度は起き上がったものの、結局またベッドに体を埋めてしまった。
このまま地の底まで沈み込んで、いつの間にか眠るようにこの世から消えられないだろうか。
そんなことを思っている時だった。
「〜…!」
一階からお母さんの歓喜のようなボリュームの大きな声が聞こえてきた。
お父さんは仕事に行っているはずだし、電話か来訪者だろうか。
それにしても大きな声だ。
掛け布団をぎゅっと握って自分の方へ手繰り寄せた。
しかし、お母さんの声は止むことなく、それどころか階段を登る足音がだんだん近づいてくる。
何の用だろう。
まだ学校の時間のはずだし、タカちゃんやレオや担任ではないはず。
もしかしておばあちゃんとか、親戚の誰かだろうか。
絶対にこんな顔見られたくない。
もうすぐそこまで足音が近づいて、布団を頭にかぶってぎゅっと目を閉じると、思ってもなかった声がドアの向こうから聞こえた。
「メ、メル。起きてる?あの、私。ア、アイだよ」
息を呑む。
悲鳴がでかかったがすんでのところで堪えた。
な、なんでアイがここに?
学校の時間のはずじゃないの?
聞きたいことは山ほどあるが、絶対に声を出したくない。
いつもの、アイが知ってる私じゃない私を悟られたくない。
「あ、あのね、私、メルと会って話したくて学校サボっちゃった。こんなの初めて。で、でもやってみたかったんだ」
アイはしばらく私の返事を待っていたようだが、少ししてからいつもより幾分明るい声色で話し出した。
それでも私は物音ひとつ立てないように努めていた。
早く呆れて帰って欲しい。
こんなやつどうでもいいと捨て去って欲しい。
アイの隣に私はそぐわない。
だが、アイはまた少し時間が経ってから、ふっと息を漏らした。
「あのね、私メルに謝りたいことがあるの」
何を謝るというのだ。
謝らなくてはいけないのは私の方だ。
「まず、ずっと会いに来なくてごめんね。行きたかったんだけど、何を言えばいいかわからなかったの。
それと、私メルのこと、」
アイはしばらく言葉を探すように低い声で唸っていた。
しかし、また一つ息を吐いてからはっきりとこう言った。
「私メルのことずっと色眼鏡で見てたの。
表面だけ見て、メルは可愛くてみんなに愛されて私が欲しい物全部持ってて羨ましい、その、あんまり辛い思いとかしてないだろうってメルのこと何一つ知らないのに私の勝手な印象だけでそう思い込んでた。
正直嫉妬もしてたんだと思う」
思わず苦笑してしまった。
その微かな声が耳のいいアイには聞こえたのだろう。
動揺したような物音が聞こえ、扉がガタッと揺れた。
壁にもたれかかってふーっと長い息を吐いた。
アイが今言った内容なら何度も言われてきた。
可愛くて、モテて、何もしなくても人が集まってきていいね、何の悩みもないんでしょ。
貼り付けた笑顔でみんなそう言うのだ。
別に今更苛立ったりすることもない。
なんともない顔で受け流すのは得意だ。
そしたら言った本人はバツが悪そうに視線を逸らすか、今度こそ苛立ちをわかりやすく見せるか。
そんなもんだ。
「でもそんなわけないよね。
メルは、メルも辛いことたくさんあって、それを見せないようにしてるだけなのに。
私は自分ばかりが不幸な顔してメルを周りに気持ちを向けることすらしなかった。
本当に、友達失格だよ」
いいんだよ、アイ。
みんなそうなんだから。
結局みんな私のこと嫌いになるの。
だから別に気にしなくていいんだよ。
友達辞めたくなったらそれでいいよ。
だけど、アイが次に行ったのは予想もしない一言だった。
「だから、私今度こそメルと本物の、友達に、親友になりたいの」
「…え?」
掠れた声が漏れてしまった。
アイが慌てたように次の言葉を捲し立てる。
「言いたいこと言い合えて、お互いのこと思いやれる、そんな、友達になりたい。
だから、私メルのこと知りたいの。
メルに、その、言えない、言いにくいことがあるなら、聞きたいの」
扉の向こうにいるアイは泣いているんだろうか。
小さい悲鳴のような声に私の心が微かに震えた。
このまま地の底まで沈み込んで、いつの間にか眠るようにこの世から消えられないだろうか。
そんなことを思っている時だった。
「〜…!」
一階からお母さんの歓喜のようなボリュームの大きな声が聞こえてきた。
お父さんは仕事に行っているはずだし、電話か来訪者だろうか。
それにしても大きな声だ。
掛け布団をぎゅっと握って自分の方へ手繰り寄せた。
しかし、お母さんの声は止むことなく、それどころか階段を登る足音がだんだん近づいてくる。
何の用だろう。
まだ学校の時間のはずだし、タカちゃんやレオや担任ではないはず。
もしかしておばあちゃんとか、親戚の誰かだろうか。
絶対にこんな顔見られたくない。
もうすぐそこまで足音が近づいて、布団を頭にかぶってぎゅっと目を閉じると、思ってもなかった声がドアの向こうから聞こえた。
「メ、メル。起きてる?あの、私。ア、アイだよ」
息を呑む。
悲鳴がでかかったがすんでのところで堪えた。
な、なんでアイがここに?
学校の時間のはずじゃないの?
聞きたいことは山ほどあるが、絶対に声を出したくない。
いつもの、アイが知ってる私じゃない私を悟られたくない。
「あ、あのね、私、メルと会って話したくて学校サボっちゃった。こんなの初めて。で、でもやってみたかったんだ」
アイはしばらく私の返事を待っていたようだが、少ししてからいつもより幾分明るい声色で話し出した。
それでも私は物音ひとつ立てないように努めていた。
早く呆れて帰って欲しい。
こんなやつどうでもいいと捨て去って欲しい。
アイの隣に私はそぐわない。
だが、アイはまた少し時間が経ってから、ふっと息を漏らした。
「あのね、私メルに謝りたいことがあるの」
何を謝るというのだ。
謝らなくてはいけないのは私の方だ。
「まず、ずっと会いに来なくてごめんね。行きたかったんだけど、何を言えばいいかわからなかったの。
それと、私メルのこと、」
アイはしばらく言葉を探すように低い声で唸っていた。
しかし、また一つ息を吐いてからはっきりとこう言った。
「私メルのことずっと色眼鏡で見てたの。
表面だけ見て、メルは可愛くてみんなに愛されて私が欲しい物全部持ってて羨ましい、その、あんまり辛い思いとかしてないだろうってメルのこと何一つ知らないのに私の勝手な印象だけでそう思い込んでた。
正直嫉妬もしてたんだと思う」
思わず苦笑してしまった。
その微かな声が耳のいいアイには聞こえたのだろう。
動揺したような物音が聞こえ、扉がガタッと揺れた。
壁にもたれかかってふーっと長い息を吐いた。
アイが今言った内容なら何度も言われてきた。
可愛くて、モテて、何もしなくても人が集まってきていいね、何の悩みもないんでしょ。
貼り付けた笑顔でみんなそう言うのだ。
別に今更苛立ったりすることもない。
なんともない顔で受け流すのは得意だ。
そしたら言った本人はバツが悪そうに視線を逸らすか、今度こそ苛立ちをわかりやすく見せるか。
そんなもんだ。
「でもそんなわけないよね。
メルは、メルも辛いことたくさんあって、それを見せないようにしてるだけなのに。
私は自分ばかりが不幸な顔してメルを周りに気持ちを向けることすらしなかった。
本当に、友達失格だよ」
いいんだよ、アイ。
みんなそうなんだから。
結局みんな私のこと嫌いになるの。
だから別に気にしなくていいんだよ。
友達辞めたくなったらそれでいいよ。
だけど、アイが次に行ったのは予想もしない一言だった。
「だから、私今度こそメルと本物の、友達に、親友になりたいの」
「…え?」
掠れた声が漏れてしまった。
アイが慌てたように次の言葉を捲し立てる。
「言いたいこと言い合えて、お互いのこと思いやれる、そんな、友達になりたい。
だから、私メルのこと知りたいの。
メルに、その、言えない、言いにくいことがあるなら、聞きたいの」
扉の向こうにいるアイは泣いているんだろうか。
小さい悲鳴のような声に私の心が微かに震えた。