キミと歌う恋の歌
アイには絶対知られたくないと思っていた。


だけど、アイのその言葉を聞いた途端私は何から何まで喋ってしまいたい気分になった。


受け止めてほしいわけでもなく、理解のある言葉をかけてほしいわけでもない。
私だけがアイの事情を知り尽くしていることへの免罪符というわけでもない。


体の中で毎日少しずつ積み重ねて来たモヤモヤが溢れ出そうとしている。
それを全部かきだしたくてしょうがなくなってしまったのだ。
海の中に沈められて口の中に勢いよく流れ込んでくる水を吐き出したくて堪らないような、そんな気持ちだ。


ベッドから立って、扉の方に移動する。


そして、扉に背を預ける形で座り、膝を抱えた。


「アイ、そこで座って聞いてくれる?私の、話」


「…っ、うん!…す、座ったよ!」


いつも落ち着いているアイがわかりやすくドスンと音を立てて座ったのがわかって少しだけ笑ってしまった。


目を閉じて、数年前に思いを巡らせる。


あれからしばらく経ったのに私はどうしてもあれを乗り越えられない。
ふとした瞬間にフラッシュバックしてパニックを起こしてしまう。


あれがなければ私は今どうなっていたんだろうか、

ないものねだりなことはわかっているけど、そんなことを考えずにはいられないのだ。




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