キミと歌う恋の歌
学年中の女子から嫌われているとなれば、さすがに男子達も遠巻きに見てくるようになった。
早いうちからそうしてくれていれば、私がここまで嫌われることもなかっただろうと憎らしく思った。
でももうそうなってしまえばどうだってよかった。

誰も寄り付かず寂しくなってしまった私の周りは見えない壁があるようで、それが辛くて、でもどこか安心した。

その当時のクラスの担任をしていた若い女教師にも嫌われていたようで、私の問題にはとうに気づいていただろうが改善しようなんて気は一切なく、
むしろ大人の教師にしかできない小さな嫌がらせの積み重ねでその雰囲気を助長していた。

成績表のコメントには"協調性を持ちましょう"だのと嫌味が毎度並んでいて、大人も所詮子どもと変わらなくて、くだらないなと幼い私はため息をついた。

だけど、やられてばかりの私ではない。
容姿を理由に理不尽な扱いを受けるのであれば、それを引き合いにして対抗してやる。

その女教師が猫撫で声でよく絡んでいた他のクラスの担任の男の教師に嘘泣きで擦り寄って、それまで受けた数々の非道を少しばかり誇大表現で訴えた。

次の日女教師は泣き腫らした不細工な目で朝教室に入ってくるなり私を睨みつけたが、もう面倒な嫌がらせをすることはなくなった。

満足はしたが、別にすっきりとはしなかった。


そんな調子で私は小学生低学年を通して、どんどん心を荒ませて行った。
家に帰れば呑気で優しい両親達に出迎えられ、近所の人たちは相変わらず私をもてはやしたので、完全に荒み切らずに済んだのはそのおかげだった。

学校に行き続けたのは、両親に学校での私の孤独に気づかれたくないという思いと、私を嫌っている連中に逃げたと思われたくないという高すぎるプライドだけが理由だった。



学校では休み時間は常に暇なので、昼休みは音楽室でピアノを弾いていた。
ピアノは幼稚園生の時に先生が弾いているのに憧れて習い始めた。
そこそこの腕前でコンクールでも何度か賞をとったことがあるが、学校のみんなの前で披露したことはなかった。
音楽の授業では、ピアノを習っている子が伴奏に立候補するという制度があったけど、どうせ私が伴奏をしたって結束して歌ってもらえずに地獄になることは簡単に予想できた。


あの日弾いてたのは確か、次のコンクールで弾く予定のブルグミュラーの練習曲だった。

右手に苦戦して苛立っていたところに彼はやってきた。



「ねえ!何年生?ピアノ上手いな!」



帽子を被りバッドを肩に担いで、真っ黒に日焼けした顔を綻ばせて窓から覗き込む1人の少年。


彼は私を知らなかったが、私は彼を知っていた。
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