キミと歌う恋の歌
もう季節は秋に近づいている。つい最近までこの時間帯でも汗が垂れてくるほど暑かったけれど、今日はひんやりとした風がセーラー服の隙間をすり抜けてゆく。
朝のこの時間帯の学校までの道が好きだ。
商店街もまだ人はほとんどいなくて、静まり返っている。
誰かの視線を感じて、俯きながら歩くことなく、前を見て飛び跳ねながら歩くこともできる。
全速力で走り抜けることも鼻歌を歌うこともできる。
誰も見ていないから私は私でいられる。
あの家の可哀想な娘でも妹でもなくて、戸田愛水として生きていられる。
今日は汗をかかなそうだから軽く走ってみよう。
心の中で決めて、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで走り出した。