キミと歌う恋の歌
学校に着いても、まだ誰もきていないので静かでシーンとしている。
私は毎日、鍵を開けるために一番乗りで学校に来る教頭先生に次いで登校する。
おかげで教頭先生とは仲が良い。
私と普通に話してくれる数少ない人たちのうちの1人だ。
「お、戸田さん、おはよう」
教頭先生が昇降口の鍵を開けた瞬間、私がドアを開くのももはやお決まりだ。
「おはようございます」
「だんだん涼しくなってきたね」
ふっくらとしたお顔でにっこりと笑う教頭先生は福の神がいるのならこんな感じなんだろうなと思わせる。
外見から優しさが滲み出ている。
「ですね。少し肌寒かったです」
「もう冬がやってくるねえ。僕は季節の中で冬が一番好きなんだよ。戸田さんはどうだい」
靴を履き替えながら他愛のない質問に少し考えてから答える。
「…春ですかね?」
「ほう。それはどうして?」
興味深そうに教頭先生は尋ねてきた。
「…うーん、何か新しいことが始まるかもしれないって思えるから…ですかね」
「へえ、確かに春は色んなことが変わる季節だからね」
頷きながらも、結局変わるのは表面的なものだけなんだよな、と心の中でつぶやいた。
昇降口から少し歩いた所で南校舎と北校舎に分かれる場所があって、そこで教頭先生とは別れる。
たった数分の時間だけど、こうやって私にも当たり前のように普通の会話を提供してくれる教頭先生とのこの時間は本当に大好きだ。
実は私の兄と姉は同じこの学校に通っていた。
姉の場合は、芸能人が多く通う有名私立を事務所に勧められたらしいがそれを断りこの学校に進学している。
学校生活は芸能人としてではなく、普通の女子高生として過ごしたいからと明言していたが、高校2年生の時に爆発的なブレイクをしてからはさすがにファンの収集がつかなくなり芸能コースを持つ高校に転入している。
それでも戸田兄妹が通った公立高校は世間から注目を浴び、受験生は次の年とその次の年に想像を絶するくらい増えたらしい。
姉が転入した3年後、私はギリギリでこの高校に入学した。
なぜわざわざ兄妹の通った高校に行くのかと馬鹿にされそうなものだが、理由は至って単純だ。
両親は高校までは私を通わせると言っていたが、条件はこの高校に合格することだった。
私の存在をあまり世間様に知られたくないために地元の人間がほとんど進学する高校にやることでなんとかその弊害を最小限に抑えることができると考えたから。
大学には絶対行かせてもらえないし、たぶん卒業すれば家も追い出される。
せめて高校生活くらい送りたいと思い、寝る間を惜しんで無我夢中で勉強し、なんとか無事言いつけを守ることができた。
家の目と鼻の距離にあるだけあって入学する前から私の存在は知られていたらしい。
あの戸田兄妹には実は末っ子がいるらしい、そしてその子が入学してくるらしいと。
初めの頃は羨望の視線を浴びていたが、1ヶ月も経たずにそれは嘲笑のまなざしに変わったのを感じた。
あの子は出来損ないだからメディアに存在を隠されていたんだと、そしてあの子に近づいたところで戸田兄妹には近づけないと、真実に気づいた教師と生徒たちはそれを態度に正直に表した。
私の戸田の姓は兄や姉が被っている金の冠ではなく、レプリカだ。
世間から見れば、身の丈に合わないおもちゃの冠をたまたまつけてしまった私はまるで裸の王様だ。
学校中から馬鹿にされる私だがそんな中で教頭先生は私に普通に接してくれる。
入学式の日から朝早くに学校に登校してきた私にお疲れさんと優しく話しかけてくれた。
教頭先生はここに長い間勤務していて、兄と姉のことも知ってるのにだ。
こんな私をほかの生徒と同じように扱ってくれる先生は私の心のオアシスだ。
「それじゃあ今日もいい1日をね」
いつもと同じ言葉を言って送り出してくれる先生に会釈して背を向けた。
が、先生が急に声を上げたので後ろを振り向く。
私は毎日、鍵を開けるために一番乗りで学校に来る教頭先生に次いで登校する。
おかげで教頭先生とは仲が良い。
私と普通に話してくれる数少ない人たちのうちの1人だ。
「お、戸田さん、おはよう」
教頭先生が昇降口の鍵を開けた瞬間、私がドアを開くのももはやお決まりだ。
「おはようございます」
「だんだん涼しくなってきたね」
ふっくらとしたお顔でにっこりと笑う教頭先生は福の神がいるのならこんな感じなんだろうなと思わせる。
外見から優しさが滲み出ている。
「ですね。少し肌寒かったです」
「もう冬がやってくるねえ。僕は季節の中で冬が一番好きなんだよ。戸田さんはどうだい」
靴を履き替えながら他愛のない質問に少し考えてから答える。
「…春ですかね?」
「ほう。それはどうして?」
興味深そうに教頭先生は尋ねてきた。
「…うーん、何か新しいことが始まるかもしれないって思えるから…ですかね」
「へえ、確かに春は色んなことが変わる季節だからね」
頷きながらも、結局変わるのは表面的なものだけなんだよな、と心の中でつぶやいた。
昇降口から少し歩いた所で南校舎と北校舎に分かれる場所があって、そこで教頭先生とは別れる。
たった数分の時間だけど、こうやって私にも当たり前のように普通の会話を提供してくれる教頭先生とのこの時間は本当に大好きだ。
実は私の兄と姉は同じこの学校に通っていた。
姉の場合は、芸能人が多く通う有名私立を事務所に勧められたらしいがそれを断りこの学校に進学している。
学校生活は芸能人としてではなく、普通の女子高生として過ごしたいからと明言していたが、高校2年生の時に爆発的なブレイクをしてからはさすがにファンの収集がつかなくなり芸能コースを持つ高校に転入している。
それでも戸田兄妹が通った公立高校は世間から注目を浴び、受験生は次の年とその次の年に想像を絶するくらい増えたらしい。
姉が転入した3年後、私はギリギリでこの高校に入学した。
なぜわざわざ兄妹の通った高校に行くのかと馬鹿にされそうなものだが、理由は至って単純だ。
両親は高校までは私を通わせると言っていたが、条件はこの高校に合格することだった。
私の存在をあまり世間様に知られたくないために地元の人間がほとんど進学する高校にやることでなんとかその弊害を最小限に抑えることができると考えたから。
大学には絶対行かせてもらえないし、たぶん卒業すれば家も追い出される。
せめて高校生活くらい送りたいと思い、寝る間を惜しんで無我夢中で勉強し、なんとか無事言いつけを守ることができた。
家の目と鼻の距離にあるだけあって入学する前から私の存在は知られていたらしい。
あの戸田兄妹には実は末っ子がいるらしい、そしてその子が入学してくるらしいと。
初めの頃は羨望の視線を浴びていたが、1ヶ月も経たずにそれは嘲笑のまなざしに変わったのを感じた。
あの子は出来損ないだからメディアに存在を隠されていたんだと、そしてあの子に近づいたところで戸田兄妹には近づけないと、真実に気づいた教師と生徒たちはそれを態度に正直に表した。
私の戸田の姓は兄や姉が被っている金の冠ではなく、レプリカだ。
世間から見れば、身の丈に合わないおもちゃの冠をたまたまつけてしまった私はまるで裸の王様だ。
学校中から馬鹿にされる私だがそんな中で教頭先生は私に普通に接してくれる。
入学式の日から朝早くに学校に登校してきた私にお疲れさんと優しく話しかけてくれた。
教頭先生はここに長い間勤務していて、兄と姉のことも知ってるのにだ。
こんな私をほかの生徒と同じように扱ってくれる先生は私の心のオアシスだ。
「それじゃあ今日もいい1日をね」
いつもと同じ言葉を言って送り出してくれる先生に会釈して背を向けた。
が、先生が急に声を上げたので後ろを振り向く。