キミと歌う恋の歌
「戸田さん、何か変わるのを待ってるだけじゃダメだよ。自分から動かないと何も変わらないからね」



いつもと何ら変わらない穏やかな口調で先生はそう言った。



その言葉の真意はよくわからなかったけれど、とりあえず大きく頷いて見せると、先生は満足したように笑って背を向けて行ってしまった。



私も渡り廊下を歩いて南校舎にある自分の教室に向かう。



さっき話していた好きな季節の話の延長だったんだろうけど、なんであんなこと言ってきたんだろう。



先生はいつも口下手な私に、質問を投げかけてくれて私の話にうんうんと頷いてくれるだけでそれに対する返事はほとんど無いに等しかった。



へえ、確かにそうだねっといった調子で否定もせず、アドバイスもせず全て受け止めてくれた。



もちろん、なにか返されるのが嫌なわけでは全くない。


でも、先生は何のことを指して、変わると言っていたんだろう。


私の置かれているこの状況のことだろうか。


それならきっともう無駄だ。


何度だって変えようとしたし、変えられると信じてた。


それでも直面するのは何も変わらない現実だけだった。




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