キミと歌う恋の歌
重いため息をついてから、トイレから出ようと扉の前に女子が溜まっていて、扉を開いたまま立ち止まった。

隙間を探し出し、横歩きとつま先歩きでそっと抜け出そうとして、トイレ付近だけでなく廊下の端にずらりと女子が並んでいるのに気づいた。

今日は何か行事でもあっただろうかと突然焦りを感じてキョロキョロと周りの様子を伺って気づいた。


向こうから歩いてくる3人の存在に。


周りの女子から発せられる黄色い歓声に驚きながらもなるほどと納得した。


金に近い明るい茶髪をふわりとなびかせて身振り手振りをつけて何かを話しながら歩く少年にその横をツインテールに結んだ栗色の髪の毛を軽快に揺らして不満げな顔で頬を膨らませて歩く少女。


そんな2人から2.3歩ほど遅れてヘッドフォンをつけて歓声の声など何一つ聞こえていないような飄々とした顔でポケットに手を突っ込んで歩く少年。


彼らは私の兄や姉に代わるこの学校のアイドルだ。


前を歩く少年が、上野玲央。


目鼻立ちのくっきりとした中性的な顔立ちに色素の薄い髪色と瞳。
噂によれば海外の血が入っているらしく、西洋の昔話に出てくるような幻想的な容姿をしている。


明るくて、人当たりもいいらしく、いつも誰かに囲まれているイメージがあるが、どこか壁を作っていて普通の人とは違う空気を纏っている。



そして、隣の女子が市川芽瑠。

同性の私でさえ目が合うと見惚れてしまうほどに可愛らしい顔立ちをしている。

くっきりとした二重に綺麗にカールした睫毛、真っ白な肌にほんのりとピンクに染まった頬とぷっくりとした真っ赤な唇。

トレードマークのツインテールがよく似合っている。

こちらはわかりやすく他人とは距離を保っていて仲のいい人間とは関わろうともしないらしい。

特に男嫌いのようでふざけた様子で彼女に声をかけた男子は有無を言わさず凍てつくような視線を向けられている。

そして後ろにいるのが津神奏司。唯一同じクラスなので他の2人よりは面識がある。

上野くんとは違うタイプの美形で、真っ黒な髪の毛に真っ黒の瞳、切れ長の目は少し怖い。


性格も無口でクール、市川さんと同じく他の人間とは関わる気がないらしく、同じクラスでおきながら私は言葉を交わしたことがない。


そんな3人ともう1人の2年の先輩を合わせた4人は小学生からの幼馴染らしく、よく一緒に行動している。


余りにも全員が華やかすぎることから本当かどうか知らないがグループのファンクラブが開設され、その会員は他校にも存在しているらしい。

家に同じような人間が2人いる私の目から見ても彼らは一般人の枠からは大きく外れている。

"何かにならなければいけない"
"社会がそのままにはしておかない"

彼らの発するオーラからはそんなことを感じ取ってしまう。

彼らはきっといずれ何かになるんだろう。

そんな彼らを見て私はひとりぼっち今と変わらない姿でああやっぱりなと呟くんだろう。


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