キミと歌う恋の歌
「なあ、親は?何でここに1人でいるんだ?家はとこだ?」


初めこそ、翔太さんはそんな風に私に質問をいくつも投げかけてきたけど何も答えない私に痺れを切らしてそれをやめた。


そしてそれから今に至るまで二度と聞かなかった。


後からうちの家の事情を知ったんだろう。


そして何を始めたかというと、側に置いてあったギターを取って慣れた手つきで弾き始めた。


初めて見るそれは私の胸を高く鳴らした。


まるで魔法の道具のように見えた。


翔太さんが指をかき鳴らすたびに生み出される優しい音たち。


あ、これさっきテレビの中で流れていた曲だ。


確かこんな歌詞だったような気がする。


無意識に私はギターが鳴らす音色に合わせて歌い始めていた。


リズムも音程もボロボロの下手くそな歌を聞かされながらも翔太さんは文句ひとつ言わずに長時間それを続けてくれた。


どれくらい経っただろう。


すっかり日も暮れ、真っ暗になってしまった頃私はようやくそろそろ家に帰らなきゃいけないことに気づいた。


別に私が帰ってこなかったところで誰も気にも留めないだろうけど、いつまでもここにお世話になるわけにはいかないと理解していた。


私の帰る場所はやっぱりあそこしかない、居場所ではないけど、あそこしかないから。


ソファーから立ち上がり、すっかり飲み干してしまったお茶と貸してくれていた上着のお礼を言って頭を下げた。


すると、翔太さんは私の前で腰を下ろし、目線を合わせた状態で頭を撫でて言ってくれた。


「また来いよ」


その言葉が涙が出るほど嬉しかった私は、毎日毎日そこに通い詰めた。


きっと迷惑だっただろう。


仕事もあるのに、こんな小学生の相手までさせられて。


だけど翔太さんは愚痴1つもらさず、いつも訪ねた時は笑顔で迎え入れてくれた。


翔太さんは私が一度だけ友達が欲しいと泣いた時に私の背中をさすりながら言った。


「大丈夫、お前が歌い続けてさえいればいつか必ずお前に友達ができる。絶対だ。アイの歌はすごいからな。
俺たちはもう友達だから、友達が言うことは間違いないぞ」


その言葉に私は今も生かされている。


歌え、歌い続けろと言ってくれる翔太さんと、この店の音楽たちに私は背中を押してもらって今日も何とか生き永らえている。


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