キミと歌う恋の歌
振り返ると、冷たい視線をこちらに向けている津神くんがいた。


「ちょ、天才とかハードルあげんなよ」


上野くんが明るくそう言い返し、津神くんの方へ行ってしまった。


取り残されてしまった私は、正直不安でいっぱいだった。


音楽棟からの帰り道、上野くんと津神くん、市川さんが前に3人並んでて、なぜか先輩は私の隣に来てくれた。


「今日放課後どこで練習だっけ?」


「翔太さんのとこでしょ?」


「え、翔太んとこ?そーだっけ?」


「朝言ってただろ。予約が取り消されたから今日空いたっつってタカが言ってた。お前が寝てたから聞いてねえんだ」


「そんなカリカリすんなよ、ソウジ」


そんなテンポのいい掛け合いを聞きながら、私も何か話を、と思ったけど


口下手なのはわかりきってるし、無理に話をしようとしたところで大した話題も出てこない。


どこまでもコミュニケーションが苦手な自分にがっかりしながら少し気まずさを感じて隣を歩いていた。


「アイ」


「っはい!」


初めて名前で呼ばれて、いつもはあまり出さないような大きな返事をしてしまった。


先輩は苦笑している。


「あいつら自由すぎてびっくりしなかった?」


「あ、いや、うーん…と」


問いかけにうまく答えられず、唸っていると、先輩は今度は声を出しながら笑った。


「遠慮すんなって。あいつら全員どっかネジぶっ飛んでるからな。まともに見えるかもしんねえけど。

だけど実力は本物だ。
特にレオとソウジの技術は飛び抜けてるから、そこは信じてやってほしい」


「も、もちろんです。あ、あの藤村さん。さっき上野くんが1ヶ月で完成させるって言ってらしたんですけど、私ついていけるでしょうか。
もし足を引っ張ってしまったら」


「だーいじょうぶ。
あいつは無理だって思うことを簡単にやってのけるし、仲間を置いて行ったりはしない。
まあたまにイライラしてるけど。

まあ、なんかあったら俺に頼って。あんま頼りになんねえかもしれないけど」


「あ、ありがとうございます。心強いです」


「あ、あとさ。
これは俺からの頼みなんだけど。

あいつらの表面だけ見てる人たちはみんなあいつらは完璧人間だって思うんだとおもうんだ。
でもアイにはそんな風にあいつらを見ないでやってほしいんだ。

確かにあいつらは顔面も整ってるし、なんでもそつなくこなすし、欠点とか悩みなんてないように思われるかもしれないけど、

あいつらそれぞれに悩みはあって、苦しんでた時期もあったからさ。
平気なふりしてるけど周りから持ち上げられることあんま好きじゃないんだ。

だからアイもあいつらのこと対等に見てやってほしい。

本物の仲間になってあげてほしい」


真剣な表情でそう話す先輩は、まるで親が大切な子供のことを話しているかのようだった。


こんなに真剣な思いを伝えてくれたんだ。


私も誠意を持って答えなきゃいけない。


「あの、私みなさんのことさっき先輩が言ったように完璧な人たちって思ってました。
すみません」


頭を下げると、藤村さんは慌てたように立ち止まってやめてやめてと連呼した。


しばらくして頭をあげて、ちゃんと自分の口で伝えた。


「でも私、こんな私でもいいなら、私、みなさんと仲良くなりたいです。
その、私は自分に本当に自信がなくて、だからみなさんのこと勝手にいいように捉えたり、対等にっていうのはまだ難しいかもしれないけど。
でもいつか、仲間だって言ってもらえるように頑張るので、よろしくお願いします」


「っはは」


藤村さんはそんな私の言葉に大きく口を開けて目を細めて笑った。


「ありがと。
ってか敬語なしって言っただろ!
藤村さんっていうのもやめてよ」


「その、これは私の癖でして…。
まだタメ口っていうのは無理かなって…」


「じゃあせめてタカって呼んでよ。
呼び捨てが無理ならちゃん付けでいいよ」


「ええ、えっと、い、いいんですか?」


「あったりまえじゃん。先輩とかむず痒いわ」


「じゃあ、えっと、あの、タカさんでもいいですか?」


「た、タカさんかー。なんかおっさんみたいだなー。…まいいや。もう一回呼んでみ?」


「えっ、たっ、タカさん」


「他の奴らもそうやって呼んでやれよ?あ、あいつらはさん付けなしな。これ先輩命令だから」


「ええ!ちょっとキツイです…」


「ははっ」


そんなことを話しているうちにいつのまにか階段の近くまで歩いていて、そこにこっちを見ている3人がいた。


私を待ってくれているみたいだ。小走りで駆けていく。


「じゃー、また放課後な〜」


後ろから来たタカさんはゆるい口調でそう言って階段を上がっていった。


それを少しだけ見送ってから、3人とも歩き出して私は後ろからついていった。



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