キミと歌う恋の歌
「始めるぞー」
入ってきたのは、私のことが大嫌いな数学の先生だった。
私は別に嫌いじゃないけど、でも毎日のようにネタのようにして馬鹿にされてるせいであの先生の授業は気が滅入ってしまう。
とにかく目立たないように、先生を苛立たせないように気をつけるしかない。
そうやっていつも徹底してたのに、最近はバンドのことで浮き足立ってしまっていた。
「黒板消えてないぞー。今日の、日直は、、」
そうやって、黒板の下の部分を目で確認している先生を見てはっと気づいた。
そういえば今日、日直だった。
気付いた時には、もう遅い。
「戸田じゃないか」
獲物を見つけたライオンのように、目を光らせて私を見る。
この目がどうしようもなく怖いんだ。
お母さんやお姉ちゃんとよく似た、自分の小ささを再確認させられる目。
「すみません」
震える声は隠せない。
「お前、職員室で話題になってるぞー。なんでも上野たちの仲間になったんだとか。
可哀想にパシリだよなあ?戸田ァ
お前みたいな出来損ないが相手にされるわけないもんなあ」
唇をかみしめて俯いたが、ふといつもと様子が違っているのを感じた。
数名の生徒が先生の方を非難するような目で見て、コソコソと耳打ちをしていた。
先生もそれを感じたのか、
「何だお前ら、急に戸田の味方になったのか?
上野パワーはすごいなぁ」
と言って不自然な高笑いを上げた。
それに対して前の席の女子たちが顔を見合わせて笑う様子が見える。
あの子たちは津神くんのファンだ。
何も言い返せず、木偶の坊に突っ立って、先生の言われるがままになってしばらくした時だった。
「うるせーな」
ざわめきの間をすっと通り抜けて、その声は明らかに先生に届いた。
ノートを開いて、シャープペンシルを左手に持ったまま、頬づえをついて彼は先生を見つめていた。
津神くんだ。
先生は一瞬たじろいだが、すぐにへつらうようにして笑顔を見せた。
「な、なんだ、津神。も、もしかして戸田が入ってきたせいでストレス溜まってるのかー?わかるぞ」
学年一の秀才の津神くんは、先生のお気に入りだ。
「うるさいって言ってんのが聞こえねえの?」
シャープペンシルの芯を繰り出しながら津神くんはもう一度芯の通った声で言った。
「なっ」
いくらなんでも、これは笑顔で受け止められなかったらしい。
先生の顔が一気に赤くなったが、津神くんはさらに追い詰める言葉を放った。
「わかりやすい授業の一つでもできるようになってから大口叩けよ。みっともねえな」
これには生徒の1人が耐えきれないと言った様子で吹き出し、それを皮切りに教室中で潜めた笑い声が巻き起こった。
先生は今にも湯気が出そうなほどに顔を赤くしてふーふーと息を忙しなく吐いていたが、言い返す言葉が見つからなかったのか強引に授業を再開した。
私も慌てて黒板の前まで行って急いで黒板を消し、席に戻った。
津神くんの顔を盗み見ると、涼しい顔で教科書を見つめていた。
入ってきたのは、私のことが大嫌いな数学の先生だった。
私は別に嫌いじゃないけど、でも毎日のようにネタのようにして馬鹿にされてるせいであの先生の授業は気が滅入ってしまう。
とにかく目立たないように、先生を苛立たせないように気をつけるしかない。
そうやっていつも徹底してたのに、最近はバンドのことで浮き足立ってしまっていた。
「黒板消えてないぞー。今日の、日直は、、」
そうやって、黒板の下の部分を目で確認している先生を見てはっと気づいた。
そういえば今日、日直だった。
気付いた時には、もう遅い。
「戸田じゃないか」
獲物を見つけたライオンのように、目を光らせて私を見る。
この目がどうしようもなく怖いんだ。
お母さんやお姉ちゃんとよく似た、自分の小ささを再確認させられる目。
「すみません」
震える声は隠せない。
「お前、職員室で話題になってるぞー。なんでも上野たちの仲間になったんだとか。
可哀想にパシリだよなあ?戸田ァ
お前みたいな出来損ないが相手にされるわけないもんなあ」
唇をかみしめて俯いたが、ふといつもと様子が違っているのを感じた。
数名の生徒が先生の方を非難するような目で見て、コソコソと耳打ちをしていた。
先生もそれを感じたのか、
「何だお前ら、急に戸田の味方になったのか?
上野パワーはすごいなぁ」
と言って不自然な高笑いを上げた。
それに対して前の席の女子たちが顔を見合わせて笑う様子が見える。
あの子たちは津神くんのファンだ。
何も言い返せず、木偶の坊に突っ立って、先生の言われるがままになってしばらくした時だった。
「うるせーな」
ざわめきの間をすっと通り抜けて、その声は明らかに先生に届いた。
ノートを開いて、シャープペンシルを左手に持ったまま、頬づえをついて彼は先生を見つめていた。
津神くんだ。
先生は一瞬たじろいだが、すぐにへつらうようにして笑顔を見せた。
「な、なんだ、津神。も、もしかして戸田が入ってきたせいでストレス溜まってるのかー?わかるぞ」
学年一の秀才の津神くんは、先生のお気に入りだ。
「うるさいって言ってんのが聞こえねえの?」
シャープペンシルの芯を繰り出しながら津神くんはもう一度芯の通った声で言った。
「なっ」
いくらなんでも、これは笑顔で受け止められなかったらしい。
先生の顔が一気に赤くなったが、津神くんはさらに追い詰める言葉を放った。
「わかりやすい授業の一つでもできるようになってから大口叩けよ。みっともねえな」
これには生徒の1人が耐えきれないと言った様子で吹き出し、それを皮切りに教室中で潜めた笑い声が巻き起こった。
先生は今にも湯気が出そうなほどに顔を赤くしてふーふーと息を忙しなく吐いていたが、言い返す言葉が見つからなかったのか強引に授業を再開した。
私も慌てて黒板の前まで行って急いで黒板を消し、席に戻った。
津神くんの顔を盗み見ると、涼しい顔で教科書を見つめていた。