キミと歌う恋の歌
上野くんの優しげな瞳に惹きつけられていると、しばらくして店のドアががらりと開いた。


「誰だ、店の前でいちゃついてんのはー」


翔太さんだ。


思わず、一歩後ろに引き下がった。


「あれ、レオと、アイ?」


「おー、翔太。アイがさ、俺らのバンドに入ることになったんだよ。
紹介してくれて助かった」


上野くんが軽い口調で言ったその言葉に、私は驚いた。


え?紹介?翔太さんが?


予想外の言葉に疑問が浮かび、首を傾げていると翔太さんはそれに気づいたのか、なんとも言えないような表情になった。


「とりあえず入れよ」


そうやって招き入れられて、上野くんがいることでいつもとは違う気分で店に入った。


上野くんはそのまま防音室の方へスタスタと言ってしまい、私はなんとなくそのままそこに立たずさんでいた。


「ごめん、アイ。俺があの日レオをあの部屋に向かわせたんだ」


翔太さんは重い口を開くようにして、そう語った。


「あいつら、レオたちに知って欲しかった。
お前のすごさをさ」


笑顔の翔太さんしか見たことがなかったから、目の前で叱られた子どものような表情を浮かべる翔太さんが不思議だった。


正直驚きはしたけど、翔太さんが私のことを思ってしてくれたことだ。


「ありがとう、翔太さん。私頑張るから」


無意識に出た言葉だった。


翔太さんにもこんなにはっきりとした物言いをしたのは初めてだ。


翔太さんも驚いたように目を見開いて私を見つめてる。


だけど、少ししてから今にも泣き出しそうに笑って、私の頭に手を乗せた。


「うん、頑張れ」


そう言って、くしゃくしゃと私の頭を撫で回した。


身長の高い翔太さんの表情は、撫でられてる間は見えなかったけど。


その声は涙声だった。


ああ、私はこんなにも優しさを与えられていたんだと思うと、私もなんだか泣きそうだった。


そんなところで、また店のドアが勢いよくガラガラとなって開いた。


「うーっす」


「こんにちはー」


そう言って入ってきたのは、あの3人だった。


タカさんは入ってきた直後にギョッとしたように私と翔太さんを指差して声をうわずらせながら言った。


「翔太…お前まさか浮気?」


翔太さんは私の頭から手を離して、呆れたように言い返した。


「馬鹿かお前。アイは俺の妹みたいなもんだ。
なあ、アイ」


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