キミと歌う恋の歌
私もいつかこんな風にほんの少しでも、誰かの気持ちを救い上げられる人間になりたいだなんて、身の丈にも合わないことを考えてしまった。


「おい、遅いぞ、タカとアイ!」


急に、階段の先にある部屋のドアが開いて、眉間にしわを寄せた上野君が顔を覗かせた。


「わりーな!」


「すみません!」


タカさんにつられるようにして、謝ったけど、その声が自分が思った以上に大きくて、小走りで部屋まで駆けながら、一人で静かに笑ってしまった。



変われる。

きっと私はここで変わる。



部屋に飛び込むと、すでに楽器の準備は終わっていて、みんなはそれぞれの楽器の音を鳴らしていた。


それぞれの力強い音に、胸が躍るように鳴りだす。


タカさんもドラムの準備にいってしまって、私は何をすればいいんだろうと、きょろきょろと周りを見渡していると、


「とりあえず、集合~」


上野君が自分のギターを置いて、呼びかけ、みんなも同じように楽器をその場において上野君の中心に集まって、円になって座った。


みんなが揃ったのを確認した、上野君はおもむろにへらっと笑って話を切り出した。


「いやあ実はさ、さっき文化祭の実行委員の人にグループ名はなんですかって聞かれたんだけどさ、そういや何にも決めてなかったじゃん?


どうする?」


グループ名ってバンド名のことだよね?


決まってないんだ


でも確かにそれらしきものまだ何も聞いてないかも。


動揺を隠せず、他のみんなの様子をこっそりと観察すると、


「ああ、そういえば俺らバンド名ねえな!」


と、タカさんは心からおかしそうにガハハと笑った。


市川さんと津神くんはあきれたようにため息をこぼしていた。


「いつまでに決めなきゃいけないの?」


「明日」


上野くんがけろっと答えると、市川さんは目を見開いて口は大きく開けた。


私もびっくりだ。


「はあ?何考えてんの」


「そんな怒んなよ。だって俺だけで考えるわけにはいかないだろ」


「まあ確かにあんたにそういうセンスは皆無ね」


「うるさいな。ま、ってことだから、明日の朝までに一人1アイデアバンド名考えてきて。言っとくけどそのバンド名で世界まで行くんだから、世界に通じなきゃだめだからな」


「なんであんたはそんなに偉そうなの」


不機嫌な市川さんに小突かれながらも、全く気にするそぶりもなくけらけらと笑う上野くんには、なんだかさすがみんなに一目置かれる存在だなと、納得してしまった。


でも、みんなってやっぱり私も入っていることにしていいんだよね?


バンド名か。


私もセンスはないし、選ばれることはないだろうけど責任重大だなあ。


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