キミと歌う恋の歌
「あと、そろそろ曲決めないと。何にする?」


続けて上野くんがみんなに問いかけて、側にあったバッグの中から大量のCDを床に並べた。


「適当に翔太から借りてきた」


CDジャケットを眺めると、ほとんどが日本のロックバンドのものだった。


「全部ロックにするの?」


市川さんは不服そうに口を尖らせた。

「とりあえずロックはマストだろ、なあソウジ」


「ああ。俺これがいい」


上野くんの問いかけに頷きながら、津神くんは1つCDを選び取った。


横目で見ると、それはよく翔太さんが私に聞かせてくれる、日本出身で海外でも人気の高いロックバンドの物だった。


「いいじゃん、タカは?」


「うう、俺はとりあえず簡単なヤツがいいな」


タカさんは頭をかきながら頭を下げて答えた。


「アイは?」


「えっ」


「なんか好きな曲とかないの?」


まさか私にも聞いてもらえるとは思っていなくて、戸惑ってしまう。


「えっと…」


とりあえず床に広がったCDを四つん這いになってじっと眺めてみる。


だけど、自分が歌うんだと思ったら、好きな曲はいくらでもあるのに気後れしてなかなか選べない。


「あ、ねえアイが今日歌ってた曲は?
あれいい曲だよな」


「え、あ、私もあの曲いいと思ってて」


反動的に俊座に答えたものの、あれを歌うとなったら気が引ける。


あれは古いイギリス出身のバンドの曲で、メロディーもあまり複雑じゃないし、音程もとりやすいけど、


私は英語の発音に全く自信はない。今日歌ったのも
マイクに乗せられるレベルには程遠い。


だけど、そんな私の思いとは裏腹に上野くんはいいアイディアとばかりに顔を輝かせた。


「アイも好きならちょうどいいじゃん。
なあ、みんないいだろ?ドラムもあんまり難しくないし」


「おう、アイあの曲うまかったしな」


「私もいいよ」


「…別にいいけど」


待って待って。
とんとん拍子に進んでしまって、焦って胸がドクドクと鳴り出す。


言わなきゃ、英語が無理だって。


「あ、あの!」


「ん?」


「すみません。私、英語の発音とか、自信なくて」


言い始めたところで、ふと気づく。


英語で歌えないなら、死ぬ気で練習すればいい。


みんなは歌える私を必要としているのに、自分から歌えないことをアピールしたところで失望されるだけじゃないか。


なんでわざわざ墓穴を掘るようなことをしてしまったんだろう。


「い、いや、やっぱり」


遅いと思ったけど、慌てて撤回しようとした時、上野くんがふっと笑って私の肩に手を置いた。


「アイ、そんな心配する必要ないぞ。うちにはな、ソウジがいるから」


「え?」


突拍子もない言葉に素っ頓狂な声を上げる。


「ソウジはな、こう見えて帰国子女なんだ。英語ペラペラなんだよなあソウジ」


そう言って、上野くんは津神くんに顔を向けたけど、津神くんは不機嫌そうに眉を曲げるだけだった。


代わりにタカさんが手を打って続けた。


「そうなんだよ〜アイ!見た目だけだと、レオの方が英語喋れそうだけどな、実はソウジなんだ」


「なめんなよタカ。俺は今軽い挨拶くらいなら余裕でできる。あ、まあそういうことだから、アイが不安ならソウジにならえばいいさ」


ならえばいいさって…


唖然としながら、ちらっと津神くんの方を見ると、唐突に目があった。


そして大きなため息を投げかけられたかと思ったら、勢いよく津神くんの口から言葉が流れ出した。


「ふざけんな。無理に決まってんだろ。1ヶ月しかねえのに発音指導なんてやってる余裕ねえよ。ちょっと考えたらわかんだろ」


口ぶりでは上野くんやタカさんを責めている感じだけど、視線は明らかに私に向いていてきつく睨み付けられている気がする。


そんな津神くんに対して、上野くんは口を尖らせた。


「あんま、カリカリすんなよなあ



なあ、アイ。
できるだろ?」


心の内を探られているような、真っ直ぐ向けられた視線にたじろぐ。


なんだか怖いと感じてしまった。


津神くんとは違う、妙に引きつけられて、目を離せなくて、誤魔化すことを許さない、彼の不思議なオーラは怖い。


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