キミと歌う恋の歌
「よし、じゃあやることは決まった。
とりあえずタカとメルと、ソウジはカバー曲の譜面探してきて。
俺はアイの自主トレ考えるから」


「お、おう。自主トレってアイは体でも鍛えんのか?」


戸惑うタカさんと私も同じ気持ちだ。


「違うよ。本番までに5曲歌い切るだけの体力つけなきゃいけないだろ。な?アイ」


同意を求めて目配せをされたけど、正直全くそんなこと頭になかった。


そりゃあそうだ。


ただでさえ体力なんてかけらもない私。


文化祭のステージで歌うっていうことは趣味程度で歌ってきた私が簡単にできることじゃないに決まってる。


「はい、お願いします!」


自主トレは少し怖いけど、乗り越えなきゃいけない壁だ。


「ふーん、なるほどな。じゃあ探してくるぞー」


タカさんも納得したように頷き、そう言って3人は部屋を出て行った。


「頼んだぞー」


3人の背中に投げかけるように、向こうも見ずにそう言いながら、上野くんはおもむろにバックの中からノートを取り出した。


ノートを開き、胸ポケットからボールペンを取り出してノックした。


「アイ、体力ある?」


「いや、無いと思います」


「おっけー、じゃあ初めは無理せずに行くか。
ランニング3キロ。遅くてもいいから。
あとはーー」



スマートフォンを取り出して、上野くんは何かを検索し始めた。


「とりあえずこの辺のトレーニングやってくか。
ここ書いとくな」


私に画面を見せながら、さらさらとノートに書き込んでいく。


文字だけ見るとすごくハードに見えるし、実際それは間違ってないはず。


だけど、なんだか楽しみで胸が高鳴っているのが自分でもわかる。


「あとは、これ」


書込み終わると、またバッグから何かを取り出して私の前に出した。


見ると、そこにはボイストレーニングという言葉が見えた。


「ボイトレの本。
時間あるときはこれやって。
俺のじいちゃんとばあちゃん、音楽関係の仕事しててさ、こういう本ならいくらでもあるから、これ読みにくかったら言って。
違うの持ってくるから」


「あ、ありがとうございます」


素直に俺を言って、受け取りずっしりとした重みを感じた。


「あの、今やっててもいいんでしょうか?」


「ああやりなやりな。時間は限られてるからな〜」


承諾をもらって、ページを開くと、そこにはたくさんのトレーニング方法が書いてあった。


ドキドキする。


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