キミと歌う恋の歌
そう言ってくれた市川さんの表情は暗闇に紛れてうまく見えなかった。


「おお〜、やるじゃんメル。お前明日絶対忘れんなよ!」


「いっつも学校行くのを忘れそうになるレオにだけは言われたくない」


容赦なく上野くんを切り捨てる市川さんにおののきながら、とにかく頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「別にいいけど」


素っ気ない市川さんの返事に、ビクビクしてしまうのは失礼だ。

「よし、じゃあそういうことで、もう夜遅いし早く帰らねえとアイのうちも家族が心配するだろ」


誰も市川さんの返事の後に言葉を発せない中、タカさんが年長らしく解散の号令を出した。


遅くなってしまったことを、心の底から詫びるように眉根を下げているタカさんに、なんだか申し訳なさを感じてしまう。


誰も心配なんてしないです。
そもそも私の帰りなんて誰も待ってないし、帰ってこなかったら小躍りでも始めそうな家族です。


なんて言ったら、自称悲劇のヒロインの誕生だ。


もう辺りは暗くて、誰にも私の表情を悟られないだろうことを言い訳に、自嘲気味に口角を上げた。


「大丈夫です。今日は本当にありがとうございました。あの、これからも頑張るのでどうかよろしくお願いします」


何度下げたことかわからない、空っぽの頭をもう一度下げて、私は見送られながら自分の家の方へ歩き出した。


しばらく歩いて、後ろを振り返ると、もう4人も背を向けていて。


立ち止まって彼らの後ろ姿に、自分の背中を足してみた。




ああ、似合わない。




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