キミと歌う恋の歌
微音も鳴らさぬようにして、玄関のドアを開けるとリビングから喧しい笑い声が聞こえてきた。


よかった、盛り上がってる。


こっちに気づくことはないだろう、胸を撫で下ろしてさっと靴を脱ぎ、階段を抜き足差し足で駆け上った。


自分の部屋に入り、平穏に帰ってこれたことにとりあえず安心する。


そして、バッグの中からさっき借りたボイストレーニングの本を取り出した。


さっきと同じようにパラパラとめくったけど、やっぱり家の中でやれば一瞬で弾劾されるだろう。


気づかれないような小声でやれそうなものなんてない。


どうせ登校時間より2時間も早く学校に行くんだから、これは朝の時間にやろう。


そう決めて、そのまままた鞄に入れ直した。


そして今度は机にノートを広げた。


ノートとは言っても、職員室の前にある裏紙をテープで貼り合わせたものだ。


お金は滅多に使わせてもらえないから、あの裏紙配布制度はものすごく助かってる。


さらにシャープペンシルを取り出した。


バンド名と、オリジナル曲の歌詞。


胸が高鳴るのを感じてる。


宿題が終われば、することなんて何もなくこの狭い部屋に一人で足を抱えてこれまでの日々も忘れられるくらいドキドキする。


さあ、今日の私の夜はまだまだ長い。


そして朝が来るのが待ち遠しい。



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