キミと歌う恋の歌
普通ならきっと、今すぐにでも何かお返しをするはず。


ちょっと高めのお菓子とか、アクセサリーとか。


市川さんにはなんだって似合いそう。


だけどそのためにはお金が必要で、でも私は自分が生活するために使うお金もなくて、人のために使う余裕なんてない。


アルバイトだってできるものならとっくにやってる。


でも未成年の私は親の許しがなくちゃ、バイトはできないし、私が不幸じゃないと許せない姉に言いくるめられた両親は私に許しをくれない。


もちろん親の許しがなくてもできる、怪しげなバイトがあるのはわかってる。


だけど今まではそこまで必要性を感じなかったし、そんな世界に足を踏み入れたらもう二度と戻ってこれない気がして手をつけなかった。


今ほどやっておけばよかったと思ったことはないな。


このままじゃ、お金を持たない私は必ずいつか迷惑をかけてしまう。


「…いいよ、お返しとか。あ、これイヤホン」


口を尖らせて、同じくピンク色のヘッドホンをくれた。


ピンクが好きなのかな。似合うなあ。何色だって似合わない色なんてなさそうだけど。


そんなことをぽやっと考えていると、市川さんが言いにくそうに、不機嫌そうに、口を開いた。


「そ、その」


も、もしかして私なんか顔につけてたりするのかな。


無意識にそんなことを考えて、おもむろに顔を触ろうとすると、けたたましく始業を知らせるチャイムが鳴った。


「あ、あの、昼休みに聞きます。すみません。あと、これありがとうございます」


ホームルームに遅れたりなんかしたら先生にどんな嫌味を言われることか。


それが怖くて、なにかを言いたげだった市川さんの話を遮って頭を下げた。


顔を上げると、やっぱり市川さんは口をへの字に曲げていて。


「うん、また昼休みにね」


そう言って、自分のクラスに入っていってしまった。

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