キミと歌う恋の歌
とにかく急ぎ足で教室に戻ると、まだ先生は来てなくて胸を撫で下ろしながら席に着いた。


チラチラとあまり良い感じではない、視線を感じるけど気づいてないフリだ。


その間に、手に握っていたウォークマンをもう一度そっと眺めた。


図書館から本を借りる以外に、人から物を借りるのって初めてかもしれない。


そんなことを考えてると、いつのまにか頬が緩んでいて、そんな所を見られたらまた馬鹿にされてしまうと慌ててバッグの中に大切にしまった。


そこで、ようやく担任が教室に入ってきて、またいつもと同じ1日が始まった。




「…おい、おいっ」


意識を取り戻すと、隣には津神くんがいて、イライラしたように私を呼んでいた。


気づくと、もう昼休みになっていた。


いや、決して寝ていたわけじゃない。


「はっ、はい」


思わず声を上げて、席から立ち上がり、津神くんの方を向くと、首をくいっとやってドアの方を示した。


「…行くぞ」


「あ、す、すみません。あの、ちょっと数学の問題が難しくて…」


そう、問題が難しすぎて、授業の一割ほどしか理解できなくてあくせくしてたらいつのまにかそもそも授業が終わってたらしい。


「知らねえよ。さっさとしろ」


津神くんは気にすることなく、そう言い放った。


「は、はい」


すでにドアの方へ歩いて行ってしまっている彼を追って、よろけながら教室を出て廊下を歩く。


だけど、津神くんなら私のことなんて気にすることなく置いていきそうなのに、わざわざ待ってくれたんだ。


きっと上野くんやタカさん、市川さんに言われたからなんだろうけど、それでも嬉しい。


気付いたら昼休みが終わっていて、なんで来なかったんだと聞かれたら、答えようもない。


第二音楽室について、中に入るともう他の3人はそこに来ていた。


「おお〜、来たな!座れ座れ!」


タカさんが陽気に私たちを呼びつけ、言われたように床に腰を下ろした。


上野くんは楽しそうに笑っていて、私たちが座ったのを確認して口を開いた。


「よし、じゃあ始めるか!まずバンド名考えてきたか?」


そう聞かれると、他の3人は急に口をつぐんだ。


「はい、タカから発表〜〜」


楽しそうに指示する上野くんに、タカさんはがっくりと肩を落とした。


「えーー、まあいいか」


そう言って、ポケットから取り出した折り畳まれた紙を広げてバンっと床に置いた。


「男闘呼組」


その後、しばらく無言が続いた。


「タカちゃんさあ、女もいるのわかってない?」


ようやく口を開いたのは、市川さんで、少し怒ったような声を漏らした。


「い、いやわかってるよ。ほら俺センスないから、、もうこんなの適当だよ!」


タカさんは慌てて弁解し始め、粋の良い字ででかでかと文字の書いてあるその紙をまたぐちゃっと丸めてポケットにしまった。


だけど、市川さんの機嫌は治らなさそうだった。


「センスねえなタカ。じゃあ次ソウジ」


呆れながら、また指示を出した上野くんに、津神くんはバサリと言い切った。


「パス。考えてねえ」


「信じらんねえな、お前もうちょい協調性持てよ」


またもや上野くんは大きなため息をつきながら、頭を抱えた。


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