キミと歌う恋の歌
"THE TREASON"


「あ、反逆っていう意味なんです。なんか響きがかっこいいなと思って」


本当はそれだけじゃない。


自分の思いを十二分に込めた。


型にはまって、自分の殻に閉じこもって生きてきた自分自身を変えたくて、

精神的に閉じ込められて、家族に支配される日々を変えることができない人生じゃもう嫌で、


私を押さえつける全てに逆らってしまいたい。


そんな思いがこもってるけど、ちょっと口にするのは恥ずかしいし、言えない。


「いいじゃん、なんかかっけえ」


いちばんに口を開いたのはタカさんだった。


興味深そうに目を輝かせて褒めてくれて、うれしくなる。


上野くんはしばらくそれを見つめて、急に思いついたように手を打った。


「なあ、これにさ、NをMに変えたらさ、全員の名前のアルファベット入ってる!」


「え?タカ、レオ、アイ、ソウジ、メル…本当じゃん、すげえ」


興奮した様子で盛り上がる2人に驚きながら、私もそれを確認してなんだかワクワクする。


横目でチラリと見ると、市川さんも津神くんも少しは興味を持っている様子だ。


そして、上野くんがふっと笑った。


こういう時の上野くんは、なんというか普通の人間を超えているような感じがする。


「いいじゃん、反逆。俺らにぴったりじゃん」


その透き通った声に、空気がピンと張り詰める。


「そうだな。俺は賛成」


「私も、かっこいいと思う。レオのより全然」


「おい最後いらねえだろ。ソウジは?」


津神くんの表情はあまり読めなかったけど、頷いて言った。


「他のやつよりは全然いいんじゃね」


「じゃあ、決まりだ!」


上野くんはにんまりと笑って、私が置いた紙を自分の方へ引き寄せて、何やら上から書き込んだ。


見ると、Nの上に大きくMが書いてあった。


「THE TREASOM。これが俺らのバンドだ。


やっと始まるぞ」


決まってしまった、私のアイデアが承諾された。


胸の鼓動がどんどん早くなる。


背筋をピンとただされるような気分だ。


もう戻れない。


大きな大きな航海の船に乗り込んで、船出の火蓋は切られた。


だけど、恐怖や恐れはひとつもない。


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