キミと歌う恋の歌
歌い終わって、恐る恐る彼の顔を見ると、また笑っていた。


「うん、いいじゃん。じゃあ俺、それベースに作るから。これ、歌詞は借りといていい?」


安心したのも束の間で、


「あ、あのそれ一枚しかないから、今書き写しても…いいいカナ」


辿々しいタメ口に、上野くんは吹き出しておもむろにスマートフォンを取り出した。


「じゃあ俺写真撮るからいいよ」


そう言って、私の歌詞を書いた裏紙を床に置いて、真上から撮影した。


そして、私にその紙を返してくれた。


「あ、ありがとうご」


すぐにお礼を言わなくちゃと、またいつものような介護に逆戻りしかけた私を上野くんは左手で私の口を覆って遮った。


「ありがとう、ね」


そう言って、ニヤッと口角を上げた上野くん。


この光景をファンの子たちに見られたら、とりあえず集団リンチに合うことは間違い無いだろう。


そんなことを思いながらも、自分の顔が自分が思っている以上に赤くなっているだろうことには気付いていた。


「ここまでかな。ボイトレはやった?」


「う、うん」


手を離されて、高鳴る胸の鼓動をなんとか気づかれないように平常心を保って話す。


「じゃあまずはアイは曲を覚えることからだから、知らない曲は今日中に覚えて。
それから全曲嫌いになるくらい聴きまくって。
歌詞はネットからコピーするんじゃなくて、自分で聞き取りながら書いてね。
あと、ただ歌うだけじゃ意味がないから、自分で歌詞の考察をして、どんな風に歌うのか考えて。
本家通りに歌う必要はないから。
とりあえずそれくらいかな。わかった?」


「わかった」


やらなきゃいけないことが増えるたびに胸が躍る。


生きる意味ができるように、存在価値が生まれたように。


「…頑張る」


そう言うと、上野くんはまた笑って、私の頭にぽんっと手を乗せた。


「あとタメ口の練習もな」


「は、はい」


「ほら!また!」


「あ!う、うん」


「よし、他3人終わるぞ〜」


向こうに行ってしまった上野くんの背中を見つめながら、自分の頭を軽く殴る。


馬鹿だな。


何をこんなにドキドキしてるんだ。



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