キミと歌う恋の歌
今日の放課後練習は、学校での練習らしい。


いつもの第二音楽室。
他の部活動と一緒で8時には完全下校だからと言って、上野くんは私の腕を引っ張って昨日のように全速力でかけていった。


私はというと、自分の体力のなさをまたしても痛感していた。


部屋に着くと、そういえばアイはまず英語の練習だなと投げやりに言われて、津神くんとセットで廊下に出された。


そして、今この状況だ。


津神くんは人を1人殺していても、あまり疑問を感じないほどの、鋭い眼光で閉められたドアを睨み付けている。


何か、何か言わなくちゃと思うけど、触れたらその瞬間爆発しそうで怖い。


「…っなんで俺がわざわざこんな…」


津神くんは吐き捨てるようにそう言って、廊下の壁にもたれかかるようにして座った。


「おい、とりあえず歌えよ」


「え?」


「聞かねえと、直すもんも直せねえだろ。ノロいんだよ、言われたことは1秒でやれよ」


「あ、は、はい」


もうただならぬ不機嫌オーラが体全体から吹き出している津神くんをこれ以上怒らせてはならないという恐怖感が先立って、いつものように歌うことに対して緊張せずに済んだ。


もういい、発音が酷くて歌うのが恥ずかしいなんて気にしてられない。


とにかく津神くんが怖い。


歌い始めてすぐ、津神くんは目を閉じたまま、私の歌を止めて、かぶせるようにして正しい発音を教えてくれた。


一度言われると、もう後は怒涛のダメ出しの連続だった。


たぶん何も指摘されずに歌えたフレーズはないだろう。


一曲歌い切るのに、1時間かかってしまった。


どっと疲れがこみ上げて肩で息をする私に、津神くんはもう一度歌えと指示を出した。


集中力が途切れたところだったけど、ここで拒否なんてしたら、想像しただけで泣きたくなる。


言われたことを思い出しながら、もう一度歌い切ると、津神くんは目を見開いてこっちをみていた。


「あの…」


「お前…もう覚えたのか?」


「え、いや、と、とんでもないです。まだまだ頑張ります」


「いや、ほとんど歌えて…」


津神くんの目はこぼれ落ちそうなほどに見開いている。


何も言えずに、伺うようにして津神くんの表情を見つめていると、


「耳がいいんだろうな」


いつの間にか部屋から上野くんが出てきていて、笑みを浮かべていた。


「レオ…。や、でもこんなんでマスターできるなら、そもそも原曲聞くだけで歌えるようになれるだろ」


「…確かに。アイ、その曲ずっと好きな曲なんだろ?何回も聞いてるんじゃないのか?」


「いや…原曲を聴いたのは3、4回くらいしか…。翔太さんの店で聞くくらいしか機会がないので」


「「はあ?」」


「ひっ、ごっごめんなさい」






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