キミと歌う恋の歌
「じゃーもう一回一曲目から通しでいくぞー」
レオの声にマイクを通したままで頷いた。
タカさんのドラムの音でイントロが始まり、思いっきり息を吸い込んだ。
練習を始めてから1週間が過ぎた。
今日は学校が休みなので朝から音楽スタジオに篭って練習している。
すでに個人の範疇ではみんな完璧に仕上げていて、今は全員での合わせ練習が続いている。
私ももちろん曲は完全に覚えきったし、最低ラインまでは仕上がっていると思う。
だけど、まだ全然足りない。
通しの練習をするたびに録音してみんなで聴いて確認しているけど、私の歌声は今のままではたぶん誰にも届かない。
今のところ指摘はされないが、たぶんみんながそう感じている。
歌とは別にレオからは常にステージに立っていることを意識して、棒立ちで歌うのではなく身振り手振りをつけるように言われた。
いまいちイメージがつかなくて、レオのスマートフォンで有名バンドのライブ映像をみせてもらって参考にしてるけど、いざ自分の姿を見ると物真似のようで見苦しい。
まだ改善点だらけだ。
5曲通しで約20分の演奏が終わり、肩で息をする。
「よーし、タカ今回ちょっと走ってたから注意な、メルは後半指もたついてる。アイはもっと集中しろ、歌ってる時は考え事すんな」
「あーだよなわりい…」
「はあい」
「ご、ごめんなさい」
歌い終わったところで即座にレオに指摘を受けた。
心の中が完全に見透かされているようなレオの一言に怯えつつ、頭を下げる。
「レオ、あの、ラストのサビの入りの部分がちょっと出にくいんだけど…」
「あーそこなー…どうするかな」
1週間経って少しだけ私も緊張せず自分から発言できるようになった。
この1週間何も言わずに従うだけで、何度もレオや津神くんに叱られて、黙り込むのは損しかないことに気づいた。
これまでとにかく目立たないよう、迷惑にならないようにと隅でひっそり過ごすことを意識して生きてきたからまだまだ他の4人の関係性に達するまでとは到底無理だが、せめて練習の間だけは対等な関係になれるよう頑張っている。
レオが楽譜を見ながら黙って考え込んでいるのを隣で見ていると、タカさんが突然私の頭に手を置いた。
「アイのレオ呼びもだいぶ様になったなー」
「なー最初とかレオの二文字に笑えるくらい噛んでたもんな」
タカさんとレオの会話に恥ずかしくなってつい俯く。
そう、この1週間でもう一つ大きく変わったことは上野くん呼びからレオと呼び捨てできるようになったことだ。
私は上野くんで定着していたのだが、それでは他人のようだとレオから言われて名前を呼ぶたびに訂正され、ようやく昨日あたりからレオと違和感なく呼べるようになった。
まだ心の中ではむず痒さが残っているけど。
「この流れで次はメルとソウジだなー」
タカさんの言葉に録音機器を操作している市川さんとベースのチューニングをしている津神くんは振り向かなかった。
1週間経ってもこの2人、特に津神くんとはいまいち距離を縮められていない。
むしろさらに嫌われているのではないかと思う。
それは根拠のない妄想ではなく、ちゃんとした理由がある。
私のどうしたって変えられないこの陰な印象とそして、金銭問題だ。
バンドをしていく上ではお金がかかる。
私の場合は楽器代はかからないけど、翔太さんのお店のスタジオもタカさんの親戚のよしみで安くはしてもらっているけどもちろんレンタル代は払うし、今日のように関係のないスタジオで長時間練習だとさらにお金はかかる。
だけど私は手持ちのお金が一切ないし、家族に頼んだところで貸してもらえるどころか最悪バンドを辞めさせられる危険があるので言えていない。
今すぐバイトでもしてお金が欲しいところだが、それも親の許可が得られない。
そのため、私は一銭も代金に協力できていない現状が続いている。
他のみんなはそれぞれアルバイトやお小遣いで協力し合って練習しているのに、私はお金も出さずに歌っているだけだ。
レオやタカさんは俺らが誘ったんだから気にするなと言ってくれてるけどいつまでもそういうわけにはいかない。
津神くんは週4.5でアルバイトをしてお金を捻出しているらしいから、私のことは心底気に入らないんだと思う。
決まりが悪く、津神くんや市川さんの方に目を向けられないまま下を向いていると、
「てか腹減ったな、昼食べ行く?」
「おお、いいな。一旦出るか」
レオが散々楽譜と見つめ合って唸ったのちに、ポンと思いついたようにそう提案すると、タカさんに続いてみんなが同意した。
すぐに近くのファミレスに行くことに話がまとまり、ゾロゾロと連れ立ってスタジオから出て行く。
どうしよう…
お金がない。
そんなことになるとは予想もせず、残りご飯で作った爆弾おにぎりを持ってきてしまった。
有名なファミレスらしいが私は行ったことがないし、私が持っているのは今日の朝廊下にたまたま落ちていた500円玉だけだ。
これで乗り切れるだろうか。お金がないなんて理由で何も頼まなかったらまた気を使わせてしまう。
レオの声にマイクを通したままで頷いた。
タカさんのドラムの音でイントロが始まり、思いっきり息を吸い込んだ。
練習を始めてから1週間が過ぎた。
今日は学校が休みなので朝から音楽スタジオに篭って練習している。
すでに個人の範疇ではみんな完璧に仕上げていて、今は全員での合わせ練習が続いている。
私ももちろん曲は完全に覚えきったし、最低ラインまでは仕上がっていると思う。
だけど、まだ全然足りない。
通しの練習をするたびに録音してみんなで聴いて確認しているけど、私の歌声は今のままではたぶん誰にも届かない。
今のところ指摘はされないが、たぶんみんながそう感じている。
歌とは別にレオからは常にステージに立っていることを意識して、棒立ちで歌うのではなく身振り手振りをつけるように言われた。
いまいちイメージがつかなくて、レオのスマートフォンで有名バンドのライブ映像をみせてもらって参考にしてるけど、いざ自分の姿を見ると物真似のようで見苦しい。
まだ改善点だらけだ。
5曲通しで約20分の演奏が終わり、肩で息をする。
「よーし、タカ今回ちょっと走ってたから注意な、メルは後半指もたついてる。アイはもっと集中しろ、歌ってる時は考え事すんな」
「あーだよなわりい…」
「はあい」
「ご、ごめんなさい」
歌い終わったところで即座にレオに指摘を受けた。
心の中が完全に見透かされているようなレオの一言に怯えつつ、頭を下げる。
「レオ、あの、ラストのサビの入りの部分がちょっと出にくいんだけど…」
「あーそこなー…どうするかな」
1週間経って少しだけ私も緊張せず自分から発言できるようになった。
この1週間何も言わずに従うだけで、何度もレオや津神くんに叱られて、黙り込むのは損しかないことに気づいた。
これまでとにかく目立たないよう、迷惑にならないようにと隅でひっそり過ごすことを意識して生きてきたからまだまだ他の4人の関係性に達するまでとは到底無理だが、せめて練習の間だけは対等な関係になれるよう頑張っている。
レオが楽譜を見ながら黙って考え込んでいるのを隣で見ていると、タカさんが突然私の頭に手を置いた。
「アイのレオ呼びもだいぶ様になったなー」
「なー最初とかレオの二文字に笑えるくらい噛んでたもんな」
タカさんとレオの会話に恥ずかしくなってつい俯く。
そう、この1週間でもう一つ大きく変わったことは上野くん呼びからレオと呼び捨てできるようになったことだ。
私は上野くんで定着していたのだが、それでは他人のようだとレオから言われて名前を呼ぶたびに訂正され、ようやく昨日あたりからレオと違和感なく呼べるようになった。
まだ心の中ではむず痒さが残っているけど。
「この流れで次はメルとソウジだなー」
タカさんの言葉に録音機器を操作している市川さんとベースのチューニングをしている津神くんは振り向かなかった。
1週間経ってもこの2人、特に津神くんとはいまいち距離を縮められていない。
むしろさらに嫌われているのではないかと思う。
それは根拠のない妄想ではなく、ちゃんとした理由がある。
私のどうしたって変えられないこの陰な印象とそして、金銭問題だ。
バンドをしていく上ではお金がかかる。
私の場合は楽器代はかからないけど、翔太さんのお店のスタジオもタカさんの親戚のよしみで安くはしてもらっているけどもちろんレンタル代は払うし、今日のように関係のないスタジオで長時間練習だとさらにお金はかかる。
だけど私は手持ちのお金が一切ないし、家族に頼んだところで貸してもらえるどころか最悪バンドを辞めさせられる危険があるので言えていない。
今すぐバイトでもしてお金が欲しいところだが、それも親の許可が得られない。
そのため、私は一銭も代金に協力できていない現状が続いている。
他のみんなはそれぞれアルバイトやお小遣いで協力し合って練習しているのに、私はお金も出さずに歌っているだけだ。
レオやタカさんは俺らが誘ったんだから気にするなと言ってくれてるけどいつまでもそういうわけにはいかない。
津神くんは週4.5でアルバイトをしてお金を捻出しているらしいから、私のことは心底気に入らないんだと思う。
決まりが悪く、津神くんや市川さんの方に目を向けられないまま下を向いていると、
「てか腹減ったな、昼食べ行く?」
「おお、いいな。一旦出るか」
レオが散々楽譜と見つめ合って唸ったのちに、ポンと思いついたようにそう提案すると、タカさんに続いてみんなが同意した。
すぐに近くのファミレスに行くことに話がまとまり、ゾロゾロと連れ立ってスタジオから出て行く。
どうしよう…
お金がない。
そんなことになるとは予想もせず、残りご飯で作った爆弾おにぎりを持ってきてしまった。
有名なファミレスらしいが私は行ったことがないし、私が持っているのは今日の朝廊下にたまたま落ちていた500円玉だけだ。
これで乗り切れるだろうか。お金がないなんて理由で何も頼まなかったらまた気を使わせてしまう。