キミと歌う恋の歌
私は生まれた時から近くに兄と姉がいたせいか、スター性というものをなんとなくだけど見極められる。
小学生の時、大人しかったが、周りと違う何かを感じていた同級生の女の子は今はファッションモデルとして活躍しているし、中学生の頃も同じように感じていた男の子は高校で始めた部活動で才能を発揮し、全国レベルになった。
内から光る何かがあって、常に余裕、自信を持ち、勝負所で決めてくるような、一言では表現し難いそのスター性を私は感じ取ることができるようだ。
だからと言って、なんの役にも立たないのだけど。
私が思うに、人は生まれた時からその運命は決まっていて、平凡と外れた人生を送る人たちはどんな過程を歩いたところで未来で輝く結果は決まっているのだと思う。
そして、レオやみんなにはそれを強く感じる。
結局レオたちは夢を叶えるのだと思う。
だけど、そこに一緒に立つのは私でいいのか。
私は平凡以下だ。
両親が全身全霊で私の才能を探しても何一つ見つからなかった。
レオは私の歌唱力を誉めてくれるけど、それは彼らに肩を並べられるほどのものだろうか。
私は本当にここにいていいのだろうか。
「…アイ!アイ!」
弾けたように顔を上げると、レオが目の前から私をじっと見つめていた。
「あ、ごめんなさい」
今は放課後の練習中だ。
今日は翔太さんのお店のスタジオを借りている。
さっき4度目の通し練習を終え、動画を見ながらフィードバックをしていたところだった。
「大丈夫か?今日遅刻したんだろ?体調でも悪いのか?」
「いや、大丈夫…ちょっと考え事しちゃって、ごめんなさい」
質問責めに謝りつつ、額に手を置いた。
朝からだめだ。
ネガティブ思考のまま、答えのない問題に頭を悩ませ続けている。
視線をずらすと、メルやタカさんが心配そうにこちらを見ていて、津神くんが苛立った顔をしていた。
「ごめんなさい…」
他に言葉が出てこなくて、馬鹿のようにまた同じ調子で謝罪を繰り返した。
「もういいよ。気にすんな。じゃあとりあえず歌のことは調子が悪かったとして置いといて、アイは表情とかも気をつけろ。表情も表現方法の一つだからな。無表情じゃダメだ。歌詞に合わせたりして考えとけ」
「う、うん。わかった」
レオの言葉に頷いたものの、自分にそんな芸当がうまくやれる気がしなくて心の中でため息をついた。
どうやって練習しよう。
「お前らやってるかー」
悩んでると、スタジオのドアがガチャリと開いて、翔太さんが顔を覗かせた。
「おー翔太なんだよ急に。暇なの?」
レオがからかうような口調でそう言うと、翔太さんは部屋の中に入ってきて、軽くレオを小突いた。
「うるせえな。ほら、もう本番まで2週間切ったし、今の段階でどのレベルまで完成してるのか俺が見てやろうかと思って」
「何様だよ」
「そんなこと言っていいのかー、ここ貸さねえぞ」
「あーレオさっさと謝っとけ」
「はいはいすんません」
翔太さん、レオ、タカさんの軽口のやり取りが続く。
「まあいいや。せっかくだから見せてやるか。これで今日はラストだな」
しばらくやり合った後でレオが勢いよく立ち上がってそう言った。