キミと歌う恋の歌
それから本番に向け毎日練習は続いたが、何度やっても私の歌は改善しなかった。
むしろどんどん悪くなっていっている気すらする。
次第に出口のないトンネルを歩いている気分になっていた。
「アイ、ちょっと来い」
本番まで1週間を切るタイミングで昼休みになってすぐレオが1人で私の教室に来た。
教室中が色めき立つ中、私はその言葉に黙ってただ首を縦に振ることしかできなかった。
人気のない渡り廊下のところまで無言のまま連れ立って行き、レオは私と視線を合わせた。
「あ、メルは話が終わったら教室に行くって言ってた。昼ご飯の時間邪魔してごめんな」
メルは相変わらず毎日お弁当を持って私の教室に来てくれていた。
私と食べたって楽しくないだろうに、天真爛漫な笑顔を見せてくれる。
だけど、時折その表情が曇っていたことも、何かを言いかけて辞めてしまう様子にも私は気づいていた。
それでも気づいていないふりをした。
築いてきたものが全て壊れてしまうのが怖かったからだ。
「ううん、大丈夫だよ」
「…そうか、…アイさ、何かあった?ずっと表情が暗いし、歌も、お前ならもっと歌えるはずだ。俺にできることならなんでも力になるから悩んでることがあるなら話して欲しい」
レオの眼差しは真剣そのものだった。
本気で私の力になりたいと思ってくれている。
私は彼らに迷惑をかけてバンドの雰囲気を悪くしている諸悪の権化でしかないのに。
だけど私は一体彼に何を言えばいいのだろう。
私は自分の気持ちすらももうわからなかった。
仲間ができて、友人ができて、自分の力が認められて、大好きな歌をめいいっぱい歌えて、これまでの人生では予想もできなかった日常が現実になって、私は問答無用で幸せになれると思っていた。
それなのに、光が差し込めば差し込むほどに自分の中の影がくっきりと輪郭を映し始めて、その対比を目の当たりにすればするほど気持ちが落ちていく。
これまでなんとも思っていなかったことひとつひとつに心を痛めて、微かに残されていた自尊心が傷つけられていく。
自己嫌悪の海から抜け出すことができない。
こんなことならずっとあの家に囚われて孤独に生きている方がよかったなんて、たまにそう思ってしまう。
オリジナル曲は自分自身への怒りを込めて書いた歌詞だ。
自分の殻に閉じこもってばかりだった私から卒業して自分らしく生きていくのだと決意の歌。
だけど私はもう怒る気力が湧かない。
どうやって歌えばいいのかもわからなくなってしまった。
「ごめんなさい、上手く歌いたいんだけど、なかなかうまくいかなくて、気持ちが滅入っちゃって」
とにかく何か言わないとと思ってそう言ったが、レオは納得した様子ではなかった。
「本当か?他に何かあるんじゃないのか?」
「ううん、他には何もない。ごめんなさい、迷惑しかかけられなくて。もう1週間もないのに」
「そんなこと言うなよ。お前は俺が見込んだボーカリストなんだから絶対大丈夫だって。あの時みたいに全員をワッと言わせようぜ」
ネガティブなことしか言えない私の背中を叩いてレオはそうって笑ってくれた。
ああ、あの中庭で歌ったあの日が私にとっての全盛期だったのかもしれない。
希望に満ち溢れたあの曲をそのままの感情で歌えた。
「うん、本当に、本当に頑張るから」
これ以上の頑張り方なんて検討もついていないのに私はそんなことを言うのだ。
なんて無責任なんだろう。
「わかった。でもアイ、1人で頑張ろうとするなよ。俺たちはチームなんだから誰かを頼れ、1人で抱え込むな」
「うん、ありがとう」
「今日からソウジもバイト1週間休みもらったらしいからみっちりやろうな。絶対また上手く行くから心配すんな!」
太陽は私には眩し過ぎた。
むしろどんどん悪くなっていっている気すらする。
次第に出口のないトンネルを歩いている気分になっていた。
「アイ、ちょっと来い」
本番まで1週間を切るタイミングで昼休みになってすぐレオが1人で私の教室に来た。
教室中が色めき立つ中、私はその言葉に黙ってただ首を縦に振ることしかできなかった。
人気のない渡り廊下のところまで無言のまま連れ立って行き、レオは私と視線を合わせた。
「あ、メルは話が終わったら教室に行くって言ってた。昼ご飯の時間邪魔してごめんな」
メルは相変わらず毎日お弁当を持って私の教室に来てくれていた。
私と食べたって楽しくないだろうに、天真爛漫な笑顔を見せてくれる。
だけど、時折その表情が曇っていたことも、何かを言いかけて辞めてしまう様子にも私は気づいていた。
それでも気づいていないふりをした。
築いてきたものが全て壊れてしまうのが怖かったからだ。
「ううん、大丈夫だよ」
「…そうか、…アイさ、何かあった?ずっと表情が暗いし、歌も、お前ならもっと歌えるはずだ。俺にできることならなんでも力になるから悩んでることがあるなら話して欲しい」
レオの眼差しは真剣そのものだった。
本気で私の力になりたいと思ってくれている。
私は彼らに迷惑をかけてバンドの雰囲気を悪くしている諸悪の権化でしかないのに。
だけど私は一体彼に何を言えばいいのだろう。
私は自分の気持ちすらももうわからなかった。
仲間ができて、友人ができて、自分の力が認められて、大好きな歌をめいいっぱい歌えて、これまでの人生では予想もできなかった日常が現実になって、私は問答無用で幸せになれると思っていた。
それなのに、光が差し込めば差し込むほどに自分の中の影がくっきりと輪郭を映し始めて、その対比を目の当たりにすればするほど気持ちが落ちていく。
これまでなんとも思っていなかったことひとつひとつに心を痛めて、微かに残されていた自尊心が傷つけられていく。
自己嫌悪の海から抜け出すことができない。
こんなことならずっとあの家に囚われて孤独に生きている方がよかったなんて、たまにそう思ってしまう。
オリジナル曲は自分自身への怒りを込めて書いた歌詞だ。
自分の殻に閉じこもってばかりだった私から卒業して自分らしく生きていくのだと決意の歌。
だけど私はもう怒る気力が湧かない。
どうやって歌えばいいのかもわからなくなってしまった。
「ごめんなさい、上手く歌いたいんだけど、なかなかうまくいかなくて、気持ちが滅入っちゃって」
とにかく何か言わないとと思ってそう言ったが、レオは納得した様子ではなかった。
「本当か?他に何かあるんじゃないのか?」
「ううん、他には何もない。ごめんなさい、迷惑しかかけられなくて。もう1週間もないのに」
「そんなこと言うなよ。お前は俺が見込んだボーカリストなんだから絶対大丈夫だって。あの時みたいに全員をワッと言わせようぜ」
ネガティブなことしか言えない私の背中を叩いてレオはそうって笑ってくれた。
ああ、あの中庭で歌ったあの日が私にとっての全盛期だったのかもしれない。
希望に満ち溢れたあの曲をそのままの感情で歌えた。
「うん、本当に、本当に頑張るから」
これ以上の頑張り方なんて検討もついていないのに私はそんなことを言うのだ。
なんて無責任なんだろう。
「わかった。でもアイ、1人で頑張ろうとするなよ。俺たちはチームなんだから誰かを頼れ、1人で抱え込むな」
「うん、ありがとう」
「今日からソウジもバイト1週間休みもらったらしいからみっちりやろうな。絶対また上手く行くから心配すんな!」
太陽は私には眩し過ぎた。