キミと歌う恋の歌
「じゃあメルに終わったって伝えとくな」


「うん、ありがとう」


渡り廊下から私の教室の前まで戻ったところでレオがそう言って自分の教室に帰って行った。


なんとなく、教室に入りづらくてドアの横で壁に少しだけもたれかかって窓の外をボーッと見つめていると、「ねえ」と横から声がした。


声の主を確認すると、そこには女子が5,6人連れ立って立っていた。
同じクラスのこの前私にモザイクアートの手伝いを頼んできた子たちもいる。
好意的な様子ではなかった。


もたれかかるのをやめて、彼女たちの方に体を向けると、中心に立っている女子が顎をぐいっと動かした。


「話があるから付いてきてくれる?」


こんな風に昼休みが忙しくなる人が来るなんて数ヶ月前は思っていなかったな。


彼女たちの話にはなんとなく見当がついている。


メルはまだ来ていなくて断る理由がなかったので、大人しく後ろをついて行った。
まるで犯罪者の護送のようにいつの間にか後ろも固められていた。




「あんた調子に乗りすぎじゃない?」


「偉そうにレオくんたちに近づいて、自分が浮いているのに気づいてないの?」


「あんたが近くにいるとソウジくんたちの格が下がるからやめて欲しいんだけど」


中庭の物陰に連れて行かれ、壁に押し付けられて私は口々に文句を投げつけられていた。


予想はついていたけど、彼女たちはこれまでよっぽど不満を溜めこんでいたらしい。


口を挟む隙間もないくらい、次から次に各々から言葉が出てきてその切れ間のないスムーズさに驚くほどだった。



「ねえ聞いてんの?!」


しばらくしてさすがに息も途切れたのか、中心にいる子が大声で怒鳴った。


「き、聞いてます。不快な気持ちにさせてすみません」


とにかく彼女たちは私に対して怒っているのだから謝るに越したことはないだろう。

頭を下げたが、むしろそれは彼女たちの怒りを倍増させたようで、さらに彼女たちの罵りはヒートアップした。


最初は言葉一つ一つをしっかり聞いて受け止めていたが、途中から似通った言葉しか出てこなくなりゲシュタルト崩壊でもしたように、頭が追いつかなくなってきた。


もうどうでも良くなってしまって、罵りを聞きながら、彼女たちの隙間から見える空を眺めた。


今日は雲ひとつない青空だ。
どこまでも澄み切っている。


彼女たちはレオや津神くんのそばに突然現れて調子に乗った私に現実を見せる目的なのだろう。
別にそんなことしなくたって私は自分がそぐわないことを十分理解してるのに。


自分のためにここまで怒ってくれる人がいるって羨ましいな、
エネルギッシュな彼女たちを見て、私はそんなことを思っていた。


やっと解放されたと思ったら、あと数分で5限が始まる時間だった。
携帯を開くと、『アイ〜どこにいるの?』とメルからメールが届いていた。

『ごめん、先生に頼まれて作業をしてたら昼休み終わっちゃった。何も言わなくてごめん。』

と返信をして、携帯を閉じてからポケットに入れて教室に向かった。
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