キミと歌う恋の歌
外に出たらもう商店街もほとんど店仕舞いをして明かりもなくシーンと静まり返っていた。
翔太さんが送っていこうかと言ってくれたが、そうは言っても家まではこの商店街を抜けるだけだ。
断って、お礼を言ってから店を出た。
体を震わせる気温に思わず袖を伸ばしながら、帰路を急ぐ。
もうこんな時間だから父も帰ってきているだろう。あまり音を立てないように家に入らなきゃ。
早めに寝て、明日はいつもよりもっと早く家を出て学校で歌の練習をしよう。
自分に言い聞かせながら小走りで駆けると、あっという間に家に着いた。
光の漏れるリビングの様子を外から伺いながら、そっと玄関のドアを開けて中に体を滑らせて入れた。
なるべく音を出さないように靴を脱いで、床をゆっくりと踏みしめながら歩いていると、前から物音がしてはっと顔を上げた。
音の先を見て思わず唇を噛み締める。
目の前には腕を組んで立っている姉がいた。
久しぶりに姉の顔を見た。
今日帰ってくるなら想定外だった。
「お、おかえりなさい」
無言のまま見つめ合うのに耐えられず、私の方から恐る恐るそう声をかけると、姉は笑うことも返事もせずにつかつかと私の方に歩いてきた。
目と鼻の先の距離で姉が近寄ってきて、思わず後退りをすると、次の瞬間前髪が引き抜かれるような痛みを感じた。
姉の手のひらが私の額に伸び、力一杯に前髪を掴まれ、その勢いのまま玄関の扉に体を叩きつけられた。
まずい、相当機嫌が悪いのか、
そう気づいた時私は全身の力を振り絞って姉の体を振り払い、玄関から飛び出せばよかった。
後の後悔は意味もなく、私は突然背中に受けた激痛と、じわじわと痛む頭皮に頭が混乱していて、震えながら姉の目を見つめ返すことしかできなかった。
「なに、すごい音が…」
音を聞きつけたのか、リビングから母が駆けつけたが、私の顔を見て面倒くさそうにため息を一つ吐いた。
姉はしばらく私を鬼の形相で睨み続けたあと、自分のポケットからスマホを出して何か操作をした後、私に向かってずいっと画面を見せてきた。
怯えながら、画面の中を確認すると、それは姉のSNSのコメント欄のようだった。
多数あるコメントの中、私が目を止めたのはたった一つのコメントだった。
『ミアさん!妹さん文化祭でライブするみたいだけど、ミアさんは観にくるの?』
コメントを見つけた途端、全身から汗が吹き出し、目を見開いたまま顔面が硬直してしまった。
コメントをしたのはうちの学校の生徒だろう。
責める要素など一つもないのだが、私はコメントした子を憎まずにいられなかった。
どうしよう、、
誤魔化す?いけるか?
こんなコメントひとつくらいなら、そんなの知らないで隠し通せるんじゃ…
だが、
「ねえこれ、本当?」
「…いや、」
否定しようとして姉を見ると、その表情は作り物のマネキンのように一切の感情が見えず、表現し難い恐ろしさを感じた。
彼女に嘘をつくのは、無理だと悟った。
「…ほ、本当です」
言葉を上擦らせながらそう答えると、姉が勢いよく右手を振り上げて、そのまま私の左頬に振り下ろした。
パチと乾いた音が玄関に響き、途端に熱をもって痛み出す頬をそっと手で押さえた。
「調子に乗るなって何度も言ったよね?バンドとか笑わせないでよ。アンタなんかできるわけないじゃん。何もできない落ちこぼれのアンタがなんで目立とうとしてるの?おかしいでしょ。ねえ、お母さんそう思うよね」
サイボーグのように息継ぎもせず、喋り続ける姉に一種の恐怖を感じる。
それは母も同じなのか、
「そ、そうね。見苦しいに決まってるわ。私たちに恥かかせないでよ」
と、しどろもどろになりながらそう答えた。
「そうだよね、おかしいよね」
姉は喋りながらゆらりと動き続ける。
そして動きを止めたかと思うと、今度は右手をぎゅっと握りしめて再び私を睨みつけ、拳を私のみぞおちに振り上げた。
翔太さんが送っていこうかと言ってくれたが、そうは言っても家まではこの商店街を抜けるだけだ。
断って、お礼を言ってから店を出た。
体を震わせる気温に思わず袖を伸ばしながら、帰路を急ぐ。
もうこんな時間だから父も帰ってきているだろう。あまり音を立てないように家に入らなきゃ。
早めに寝て、明日はいつもよりもっと早く家を出て学校で歌の練習をしよう。
自分に言い聞かせながら小走りで駆けると、あっという間に家に着いた。
光の漏れるリビングの様子を外から伺いながら、そっと玄関のドアを開けて中に体を滑らせて入れた。
なるべく音を出さないように靴を脱いで、床をゆっくりと踏みしめながら歩いていると、前から物音がしてはっと顔を上げた。
音の先を見て思わず唇を噛み締める。
目の前には腕を組んで立っている姉がいた。
久しぶりに姉の顔を見た。
今日帰ってくるなら想定外だった。
「お、おかえりなさい」
無言のまま見つめ合うのに耐えられず、私の方から恐る恐るそう声をかけると、姉は笑うことも返事もせずにつかつかと私の方に歩いてきた。
目と鼻の先の距離で姉が近寄ってきて、思わず後退りをすると、次の瞬間前髪が引き抜かれるような痛みを感じた。
姉の手のひらが私の額に伸び、力一杯に前髪を掴まれ、その勢いのまま玄関の扉に体を叩きつけられた。
まずい、相当機嫌が悪いのか、
そう気づいた時私は全身の力を振り絞って姉の体を振り払い、玄関から飛び出せばよかった。
後の後悔は意味もなく、私は突然背中に受けた激痛と、じわじわと痛む頭皮に頭が混乱していて、震えながら姉の目を見つめ返すことしかできなかった。
「なに、すごい音が…」
音を聞きつけたのか、リビングから母が駆けつけたが、私の顔を見て面倒くさそうにため息を一つ吐いた。
姉はしばらく私を鬼の形相で睨み続けたあと、自分のポケットからスマホを出して何か操作をした後、私に向かってずいっと画面を見せてきた。
怯えながら、画面の中を確認すると、それは姉のSNSのコメント欄のようだった。
多数あるコメントの中、私が目を止めたのはたった一つのコメントだった。
『ミアさん!妹さん文化祭でライブするみたいだけど、ミアさんは観にくるの?』
コメントを見つけた途端、全身から汗が吹き出し、目を見開いたまま顔面が硬直してしまった。
コメントをしたのはうちの学校の生徒だろう。
責める要素など一つもないのだが、私はコメントした子を憎まずにいられなかった。
どうしよう、、
誤魔化す?いけるか?
こんなコメントひとつくらいなら、そんなの知らないで隠し通せるんじゃ…
だが、
「ねえこれ、本当?」
「…いや、」
否定しようとして姉を見ると、その表情は作り物のマネキンのように一切の感情が見えず、表現し難い恐ろしさを感じた。
彼女に嘘をつくのは、無理だと悟った。
「…ほ、本当です」
言葉を上擦らせながらそう答えると、姉が勢いよく右手を振り上げて、そのまま私の左頬に振り下ろした。
パチと乾いた音が玄関に響き、途端に熱をもって痛み出す頬をそっと手で押さえた。
「調子に乗るなって何度も言ったよね?バンドとか笑わせないでよ。アンタなんかできるわけないじゃん。何もできない落ちこぼれのアンタがなんで目立とうとしてるの?おかしいでしょ。ねえ、お母さんそう思うよね」
サイボーグのように息継ぎもせず、喋り続ける姉に一種の恐怖を感じる。
それは母も同じなのか、
「そ、そうね。見苦しいに決まってるわ。私たちに恥かかせないでよ」
と、しどろもどろになりながらそう答えた。
「そうだよね、おかしいよね」
姉は喋りながらゆらりと動き続ける。
そして動きを止めたかと思うと、今度は右手をぎゅっと握りしめて再び私を睨みつけ、拳を私のみぞおちに振り上げた。