キミと歌う恋の歌
そのまま体感で10分くらい私はサンドバッグ状態だった。
殴られ、蹴られ、意識も朦朧としていたが、喉だけは守らないとと思い、体を丸め続けた。
姉は半狂乱状態だった。
途中までは「あんたの歌なんか下手に決まってる」、「どうせ失敗する」などと私を否定する言葉を叫び続けていたが、疲れてきたのか「死ね」の2文字をひたすらに繰り返している。
姉のちょっとした暴力や暴言は日常的なもので慣れているけど、こんな風にパニックを起こしたように怒鳴ったり暴力を振るのは一年に一回くらいの頻度であるかないかだ。
それも今回は特に酷い。
私が隠れてバンドに所属していたことがそんなに気に食わなかったのだろうか。
母も流石に危ないと思ったのか、止めようとしている様子だったが、姉は聞く耳も持たない。
父もきっと騒ぎの音は聞こえているはずだが、顔も見せない。
体に受ける衝撃が一旦止まり、恐る恐る顔を上げた。
私を見下ろしている姉はなぜか今にも泣き出しそうな顔をしていた。
泣きたいのはこっちの方なのに。
殴られたり蹴られた部位がズキズキと痛む。
狡猾な姉だからいつもは制服で隠れる部分しか殴らないのに、今日はよっぽど冷静さを失っていたのか、ふくらはぎや腕まで赤く腫れ上がってしまっている。
どうやって隠そうかと頭を悩ませていると、突然制服の首元を掴まれた。
凄まじい力で引っ張られて、慌てて力の方向に這いつくばって進む。
姉は私の部屋に向かっていた。
部屋のドアを大きな音でバタンと開けると、思いっきり後ろから突き飛ばされて、部屋の中に転がり入った。
何度も打ち付けられた背中にさらに受けた衝撃にさすがに呻き声をあげていると、
姉は仁王立ちして言った。
「制服脱いで。あと携帯出して」
「な、なんで…」
「いいからさっさとしなさいよ。また殴られたいの?」
戸惑いつつも、怒りの表情で急かされるので、私はとにかく言う通りに携帯をポケットから出して、制服を脱ぎ、下着姿になった。
これ以上殴られたら歌に支障が出てしまうかもしれない。
暖房設備も何もない部屋なので一気に冷える。
「じゃあそこで明後日まで大人しく寝てなさいよ」
私の服と携帯をさっと奪い取った姉の一言に私は青ざめた。
「ちょ、ちょっと待ってください、。」
静止の言葉を完全に無視して、姉は部屋を出た。
続いて私も部屋を出ようとしたが、姉に勢いよく蹴り飛ばされて地面に尻餅をつく。
その間にドアは閉められ、その先で重いものが地面を動く音が聞こえた。
本当にまずい。
すぐに立ち上がって、ドアに体を打ちつけたが、ドアはびくとも動かない。
ドアノブを捻っても開かない。
本当に私は大馬鹿者だ。
制服を脱いで携帯を渡せと言われた時に真意に気づくべきだった。
そこに気づけないから私はダメなんだ。
それでも今はまだ絶望してる場合じゃなかった。
「お姉ちゃんお願いします、開けてください!私が行かなかったらみんなに迷惑をかけてしまうんです!私は何されてもいいです!お願いします明日と明後日だけはいかせてください!お願いします…」
出せる限りの声を出してそう叫ぶと、しばらくした後で姉の冷静な声が返ってきた。
「いいじゃない。アンタは何も言わずに本番をボイコットしてみんなの信用を失って、今度こそ本当に1人になるの。」
つい言葉を失う。
どうしてここまでするんだろう。
私が気に入らないのはわかってる。
でもここまでする必要が果たしてあるんだろうか。
「お願いします…今後何されても構いません。死んだっていい。明後日だけは…許してください」
心から泣き叫びたい気分だったが、そんな時間さえ無駄だ。
顔の見えない相手にドア一枚を挟んで私は土下座をして謝り、お願いし続けた。
それでも返ってくるのは尖った声だけだった。
「何言おうが出さないわよ。死にたきゃ勝手に死ねばいいでしょ。アンタは一生幸せになれないの。なっちゃいけないの。いつまでも永遠にひとりぼっちで絶望した顔してなよ。そうしないと私イライラして許せないから」
力いっぱいに地面を踏みつけて歩く音が聞こえ、ドアの外は静まり返った。
どれだけ叫んでももう返事は返ってこなかった。
しばらくしてドアを叩き続けるのも疲れ、一度部屋の中を見まわした。
他に出れそうなところは窓くらいだ。
サイズは小さいが、私1人くらいならギリギリ通れるだろう。
だが近づいて確認すると、姉がやったのか鍵の部分が壊されて開かないようになっていた。
それに、窓から出られたところで足の踏み場などは一切なく、安全に降りられるとは思えない。
完全に閉じ込められてしまった。
これまで何度も悲観的になったり絶望したが、今日ほどにそんな言葉たちが似合う日はなかっただろう。
姉は本当に私を明後日の文化祭が終わるまで閉じ込めたままにしておくだろう。
気づけば頬に静かに涙が伝っていた。
私の手で夢を終わらせてしまった。
全部ぶち壊してしまった。
ああ、レオに返事をしていなかった。
もう喋ることもできなくなってしまうかもしれないのに。
ごめんなさい、ごめんなさい、思ったところで誰にもそれは届かない。
殴られ、蹴られ、意識も朦朧としていたが、喉だけは守らないとと思い、体を丸め続けた。
姉は半狂乱状態だった。
途中までは「あんたの歌なんか下手に決まってる」、「どうせ失敗する」などと私を否定する言葉を叫び続けていたが、疲れてきたのか「死ね」の2文字をひたすらに繰り返している。
姉のちょっとした暴力や暴言は日常的なもので慣れているけど、こんな風にパニックを起こしたように怒鳴ったり暴力を振るのは一年に一回くらいの頻度であるかないかだ。
それも今回は特に酷い。
私が隠れてバンドに所属していたことがそんなに気に食わなかったのだろうか。
母も流石に危ないと思ったのか、止めようとしている様子だったが、姉は聞く耳も持たない。
父もきっと騒ぎの音は聞こえているはずだが、顔も見せない。
体に受ける衝撃が一旦止まり、恐る恐る顔を上げた。
私を見下ろしている姉はなぜか今にも泣き出しそうな顔をしていた。
泣きたいのはこっちの方なのに。
殴られたり蹴られた部位がズキズキと痛む。
狡猾な姉だからいつもは制服で隠れる部分しか殴らないのに、今日はよっぽど冷静さを失っていたのか、ふくらはぎや腕まで赤く腫れ上がってしまっている。
どうやって隠そうかと頭を悩ませていると、突然制服の首元を掴まれた。
凄まじい力で引っ張られて、慌てて力の方向に這いつくばって進む。
姉は私の部屋に向かっていた。
部屋のドアを大きな音でバタンと開けると、思いっきり後ろから突き飛ばされて、部屋の中に転がり入った。
何度も打ち付けられた背中にさらに受けた衝撃にさすがに呻き声をあげていると、
姉は仁王立ちして言った。
「制服脱いで。あと携帯出して」
「な、なんで…」
「いいからさっさとしなさいよ。また殴られたいの?」
戸惑いつつも、怒りの表情で急かされるので、私はとにかく言う通りに携帯をポケットから出して、制服を脱ぎ、下着姿になった。
これ以上殴られたら歌に支障が出てしまうかもしれない。
暖房設備も何もない部屋なので一気に冷える。
「じゃあそこで明後日まで大人しく寝てなさいよ」
私の服と携帯をさっと奪い取った姉の一言に私は青ざめた。
「ちょ、ちょっと待ってください、。」
静止の言葉を完全に無視して、姉は部屋を出た。
続いて私も部屋を出ようとしたが、姉に勢いよく蹴り飛ばされて地面に尻餅をつく。
その間にドアは閉められ、その先で重いものが地面を動く音が聞こえた。
本当にまずい。
すぐに立ち上がって、ドアに体を打ちつけたが、ドアはびくとも動かない。
ドアノブを捻っても開かない。
本当に私は大馬鹿者だ。
制服を脱いで携帯を渡せと言われた時に真意に気づくべきだった。
そこに気づけないから私はダメなんだ。
それでも今はまだ絶望してる場合じゃなかった。
「お姉ちゃんお願いします、開けてください!私が行かなかったらみんなに迷惑をかけてしまうんです!私は何されてもいいです!お願いします明日と明後日だけはいかせてください!お願いします…」
出せる限りの声を出してそう叫ぶと、しばらくした後で姉の冷静な声が返ってきた。
「いいじゃない。アンタは何も言わずに本番をボイコットしてみんなの信用を失って、今度こそ本当に1人になるの。」
つい言葉を失う。
どうしてここまでするんだろう。
私が気に入らないのはわかってる。
でもここまでする必要が果たしてあるんだろうか。
「お願いします…今後何されても構いません。死んだっていい。明後日だけは…許してください」
心から泣き叫びたい気分だったが、そんな時間さえ無駄だ。
顔の見えない相手にドア一枚を挟んで私は土下座をして謝り、お願いし続けた。
それでも返ってくるのは尖った声だけだった。
「何言おうが出さないわよ。死にたきゃ勝手に死ねばいいでしょ。アンタは一生幸せになれないの。なっちゃいけないの。いつまでも永遠にひとりぼっちで絶望した顔してなよ。そうしないと私イライラして許せないから」
力いっぱいに地面を踏みつけて歩く音が聞こえ、ドアの外は静まり返った。
どれだけ叫んでももう返事は返ってこなかった。
しばらくしてドアを叩き続けるのも疲れ、一度部屋の中を見まわした。
他に出れそうなところは窓くらいだ。
サイズは小さいが、私1人くらいならギリギリ通れるだろう。
だが近づいて確認すると、姉がやったのか鍵の部分が壊されて開かないようになっていた。
それに、窓から出られたところで足の踏み場などは一切なく、安全に降りられるとは思えない。
完全に閉じ込められてしまった。
これまで何度も悲観的になったり絶望したが、今日ほどにそんな言葉たちが似合う日はなかっただろう。
姉は本当に私を明後日の文化祭が終わるまで閉じ込めたままにしておくだろう。
気づけば頬に静かに涙が伝っていた。
私の手で夢を終わらせてしまった。
全部ぶち壊してしまった。
ああ、レオに返事をしていなかった。
もう喋ることもできなくなってしまうかもしれないのに。
ごめんなさい、ごめんなさい、思ったところで誰にもそれは届かない。