キミと歌う恋の歌
「すみません」



とにかくこう言う時は素直に謝るに越したことはない。




背を向けている姉に向かって腰から折って謝ったが、こちらを振り向いた表情はなす術もないという感じだった。


「ねえ、何に謝ったの?」


もしも誰かも知らぬ人間だったら一瞬のうちに彼女の虜になってしまう、そんな溶けるような笑顔を浮かべて彼女は私を叩く。


目の前で左腕が持ち上がったかと思った途端、右頬に燃えるような痛みを感じてギュッと目を閉じた。


じんわりと痛みが広がるのを堪えながら、もう一度壊れたおもちゃのように同じ言葉を繰り返した。


「すみません」




こういう時は謝り続けるのが最善の策なのだ。
長年生きてきて培った術だ。



頭をかきむしりながら、舌打ちをして私を見下ろす姉の表情を見なくていいように私は俯き続ける。




「ねえ言葉だけじゃ足りないよね」


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