キミと歌う恋の歌
それからすぐに翔太さんから電話がかかってきて、体育館で合流した。
お店の車にドラムや機材を乗せて運んでくれて、みんなで協力してステージの横の控え室まで運んだ。

この後私たちのリハーサル時間をとってもらっているため、その時実行委員の人にも手伝ってもらって、ステージに素早くセットする練習もする予定だ。


「ところでアイはどうしたんだ?」


作業がひと段落して、車の近くで休憩していると、おもむろに翔太さんが聞いた。

みんなで顔を見合わせて黙り込む。
さっきタカちゃんにも事情は話してある。
誰から、何を話そう、みんなそんなことを考えているんだろう。

だが結局最初に口を開いたのはレオだった。


「アイ今日休みらしいんだ」


「え」


レオの言葉に翔太さんは即座に顔をこわばらせた。


「それで…一応さっきメールが返ってきたんだけど、メルがそれを書いたのはアイじゃないって言っててさ、
翔太、昨日のアイの様子はどうだった?」


言葉を選びながら紡ぐレオの前で、翔太さんは見てるこちらが不安になるほど、どんどん表情を暗くしてこちらに目を合わせてくれなくなった。

いつも元気で頼りになる翔太さんのこんな様子見たことがない。

何か、知ってるんだろうか。

そう思ったのは私だけではないらしく、それまで静観を決め込んでいたタカちゃんが少し語尾を強めて言った。


「何か知ってんのか?翔太」


翔太さんはしばらく考え込むように俯いていたが、意を決したように前を見て私たちの目をまっすぐに見つめて言った。


「昨日までアイは本番まで諦めずに頑張るってはっきり言ってた。それは心からの気持ちなはずだ。
それ以上のことは知らないから、今アイがどこで何してるのかもわからない。

だけど、俺はアイについてお前らに話さなきゃいけないことがある」


「なんだよ」


意味深な翔太さんの言葉に、詰め寄るようにしてソウジが言った。

翔太さんは首を振った。


「長くなるから、お前らリハーサル終わったらうちの店に来てくれるか?」


「なんで!アイのこと心配だから早く知りたい…」


思わず口を挟んでしまったが、翔太さんは改めてきっぱりと首を振って「ダメだ」と言った。


他のみんなも不満げな顔をしていたが、レオがふっと息を漏らして、


「…わかった。店に行くよ。いいだろ、お前ら」


そう言ってみんなに確認し、頷いたのを見て翔太さんは力なく笑って「ありがとな」と呟いた。


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