彼の溺愛はわかりづらい。
「琴、どうした」
さっき世永くんが私の名前を呼んだのに比べて、遥かに安心するその声に、悲しくもないのに、泣きそうになってしまって。
「な、なんでもない…」
「…後でちゃんと話聞くから」
「ほんとに、なんでもないから」
「噓ついてんじゃねぇよ。舐めんな」
「…ごめんなさい」
なんで本当に、そんなに私のことわかってくれるんだろう。
…もしかしたら、今までも私が見落としてただけで、燈の優しさは、そこらじゅうに散らばってたのかもしれない。
もっとちゃんと、燈のこと見てたい。
そしたら、もしかすると、燈と同じ気持ちを返せるかもしれないから。
「…カップルのイチャイチャほど見てて虚しいものはないからねー。俺、帰るわ」
「あ、世永くん、帰るの…?」
「ごめんねー。気が変わった」
「そっか」
「俺には好都合ですけど」
「燈!」
なんでさっきから燈は世永くんに対して、失礼なことばっかり言うんだろう。