彼の溺愛はわかりづらい。







「ただいまー」

「おかえり。…琴、海堂くん来てる」

「え、ほんと?」

「…琴、あんなに無気力だったのに、海堂くんの名前聞いた途端に元気になるの、やめてくれるかな…」

「別に、元気になったわけじゃ…」



ない、わけでもないのかもしれない。
ちょっとだけ、ほんのちょびっとだけ、嬉しかったりしたし。



「琴に彼氏とかできたら、俺、泣いちゃうよ?」

「…泣いていいよ。早く好きな人できるといいね、お兄ちゃん」

「琴、ひどい」



今のどこがひどいのか、全くわからない。

お兄ちゃんを想う、健気な妹心なのに。



「…じゃあ、またあとでね、お兄ちゃん。部屋行ってくる」

「…イチャイチャしないように」

「そんな間柄じゃないし」



さっきまで、「彼氏できたら泣いちゃうよ?」とか言ってたくせに、自分からそんなこと言ってどうすんの。

そもそもしないのに。例え好きな相手だとしても、誰かがいるときにはそういうことはしたくない…。特に、お兄ちゃんに見つかったらめんどくさいことになるだろうし。




< 121 / 209 >

この作品をシェア

pagetop