彼の溺愛はわかりづらい。
「海堂の教え方は本当にわかりやすいからな~。家庭教師のバイトとかしたら、儲かりそうだよね」
「…別に、どうでもいいし」
「つまんないの」
そもそも。
俺が勉強できるのは、お前のためだし。
…っていうのは、違う気がするけど。
…少しでも、お前に認められたいから。
「るせーな。始めるからノート出せ」
「海堂、もう出てる。目ぇついてんの?」
「…」
つい勢いで「黙れ」とか言いそうになったけど、コイツの声が聞こえなくなるのは、寂しいから。
例えば、あのときキミに逢わなかったら。
例えば、あのとき振り向いていなければ。
…俺はずっと、落ちこぼれのままだったんだろうか。
「ねー、海堂」
「…」
「もしかして怒ってる?」
「…」
「ごめん。…でも、嫌いな人にはこういうことは言えないから、つい」
そこでやっと、俺は琴の声に気づいた。
…なに聞き逃してんだよ。
「…いい意味?」
「もちろん。リラックスできるってことだよ。あ、あれみたい。ラベンダー」