彼の溺愛はわかりづらい。
明らかに私に押しつけてきたのに、わざとらしく言うしぃが恨めしい。
「まーまー、怒らない怒らない」
「別に怒ってはない」
ちょっとムカついただけで、怒ってはない、断じて。異論は認めない。
「でも、琴は私と違って体育嫌いってわけでもないでしょ?なんで嫌なの、体育祭」
「クソ暑いじゃん。殺す気かっての」
「……琴ってほんと、口悪いよね」
「しぃにだけは言われたくない」
しぃ、私以上に口悪いでしょ。
現に、噂だってしぃの方が酷いやつばっかりだし。「ヤクザの娘だ~」とか。違うけど訂正はしなかった。
「まぁ、あえて今はツッコまないけど」
「今〝は〟ってなに。怖いんだけど」
「冗談冗談。後でもなにもしないよ」
…えー、信用ならない。
けど、どうこう考えてもどうにもならないし、考えるだけムダか。
…そう思うことにしよう。他に手段はない。残念ながら。