彼の溺愛はわかりづらい。
「へー、呼んでくれねぇんだ」
「え」
振り向くとそこには。
…狸寝入りをしていたはずの、彼がいた。
「聞きたいんだけど、俺の名前。琴の声で」
「う」
「あーあ、逃げられないねぇ、琴」
甘えるような声にタジタジになっている私と。
そんな私を見ながらニヤニヤしているしぃと。
…それでも愛しげに私を見つめる彼。
「……っ」
「呼べよ」
「あ、二人の世界になりそうなら他行って」
そう言ったしぃの声が聞こえたと同時に、引っ張られる私の体。
もうすぐ授業が始まりそうだというのに非常階段にいる私たちは、ほぼ授業をサボることで確定だろう。
…こんな狭い空間の中、二人きり。
「琴」
「……と、燈…」
「もっと」
「…燈」