彼の溺愛はわかりづらい。
――キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを知らせるチャイムの音。
「あー、鳴っちゃった」
「鳴ったねー。よし、さっさとお前ら帰れ」
「ひどくない?はーちゃん先生、それひどくない?」
「散れ、お前ら」
「うっわ…それさー…なんて言うんだっけ?パワハラ?セクハラ?」
「ちげーよ、言葉は正しく使え」
一通りのやりとりを済ませたあと、私は次の授業が美術だということを思い出した。
美術は好きだ。
「ま、いーや。次の授業、好きなやつなんだよね。だから帰る。お兄ちゃんに、はーちゃん先生にネタ晴らししたって報告しとこ」
「おーよ、朋によろしく」
「へいへーい」
めんどくさいから適当に返事したら、はーちゃん先生に軽く睨まれた。
別にいいじゃん、はーちゃん先生も私に適当なんだし。っていうか何事にも適当だし。
「燈は?行かねーの?」
ニヤニヤニヤニヤしながらはーちゃん先生は言った。
…素直に気持ち悪いよ、その表情は。
どうやら海堂も似たようなことを思ったらしく、露骨に顔を歪めると、聞こえるか聞こえないかぐらいのボリュームで「…行く」とだけ言ってから、私に続いて保健室を後にした。