彼の溺愛はわかりづらい。


「で?具合悪い(仮)のが燈なら、なんで渋川(しぶかわ)はここ来てるわけ?」

「お宅の燈くんにケンカ吹っ掛けられてしまって、それに返事してたとこを運悪く山センに見つかり、教室から締め出されてしまったワケであります」

「なんだ、いつもの痴話喧嘩か」

「ちがわい」



コイツとの〝痴話喧嘩〟なんて、ないから。絶対ないから。地球がひっくり返っても世界滅亡してもないから。



「お前、教師になんちゅー言葉遣いなんだよ」

「はーちゃん先生があまりにも変なこと言うから、つい。ごめん、はーちゃん先生。そして二度と言わないで。宇宙滅亡レベルで有り得ないから」

「…燈、さっき名前で呼んでもらって、ちょっと舞い上がってたのにな」



私が言い返す(?)と、はーちゃん先生は私には返事をせずに、ヤツに向かって憐れむように呟いた。何を言ってんのかは聞こえん。


そして、いつもは、はーちゃん先生はヤツを小馬鹿にしてるように言って、ヤツは噛み付くように言い返すんだけど、ヤツは珍しく、ひたすらしおれてるように見える。
…大丈夫かマジで。ちょっと心配になってきたんだけど。



「…ちょっと海堂、落ち込んでんの?ほら、飴あげるから元気出せば?」

「お、渋川、俺には?」

「あ、ごめん、一個しかなかった。はーちゃん先生は自分で買って」

「…サンキュ」



ヤツはちょっとだけ嬉しそうにそれを受け取ると、すぐに口の中に放り込んだ。




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