彼の溺愛はわかりづらい。
▼俺だって、本当は《side 海堂》
いつだって本当は、笑わせるような言葉の一つでも言ってやりたいのに。
俺はいつも、コイツをイライラさせてばっかりだ。
そう思いながらも隣を見ると、
「…なに?」
明らかに不機嫌そうな声が届く。
それだけなのに、不機嫌な声なのに。
…嬉しく思ってしまう俺は、笑えるくらいコイツが好きなんだと思う。
まぁ、俺はきっと、コイツに嫌われてるんだろうけど。
…って、自分で言うのも悲しいな。
「…別に」
平然を装って、俺は答える。
…けど、どういうわけか周りから聞くと、すっげー怒ってるみたいに聞こえるらしい。
これも嫌われている要因の一つなんだろう。
だけど、一番の原因は、多分最初。出だしから俺は間違えた。
あのときだって本当は、「最悪」なんて言うつもりじゃなかった。
…わけではないんだけど。
最悪だって思ったのは、きっとドキドキしすぎて集中できないだろうから。
もっとかっこよくなってから渋川と話したかったのに、思ってたよりタイミングが早すぎたから。
…同中の志波は、渋川とかなり仲がいいみたいで、俺の気持ちもバレてる。志波いわく、「琴のこと見過ぎ」らしい。自覚はあったけど。