彼の溺愛はわかりづらい。







ファミレスに入ってメニューを注文してから、渋川が、自分の分の飲み物と、出された水を既に飲み干してしまった俺の分の水を入れに行ってくれている。

…〝渋川が俺のために〟って考えただけで、すごく嬉しくなる。
たったこれだけのことで。荷物番として置いて行かれたから、代わりにやってくれているだけなのに。


俺は、渋川に「飲んでていいよ」と言われた彼女の分の水をちまちま飲みながら、飲み物を用意している渋川の後ろ姿を眺めた。


そうしていると、不意にキツイ香水の臭いがした。



「相席いいですかー?」



そう声をかけられて、一応そっちを向くと、メイク濃いめのギャルが数人いた。
…結構苦手なタイプだ。

逆ナンか。
揉め事になったらめんどくせぇし、ここは一つ、穏便に済ませたい。



「すみません、連れがいるので」

「お友達ですか?お友達さんも一緒がいいですー」



…さっさと引き下がればいいのに。厄介なんだけど。


そもそも、連れって女だし。いいのか?一緒で。



「いや~、それはどうかな~…」



本当は今すぐにでも怒鳴ってやりたいところだけど、店の中だから、俺は曖昧に笑ってやり過ごそうとした。


…つーか渋川、いつまでドリンクバーいるつもりなんだよ。長すぎんだろ。

そう思ってドリンクバーの方を見てみると、そこに渋川の姿はない。




< 74 / 209 >

この作品をシェア

pagetop