99%アンドロイド
「それじゃあA、朝飯にするか」
「ハイ」
長い「ベンキョウ」の時間がようやく終わると、ボクはベッド(といってもニンゲンとは違うボク専用の大型充電器)から立ち上がり、研究室備え付けのキッチンへと向かった。
ハカセはハンドドリップの「トビッキリ」に濃いブラックコーヒーを毎朝飲む。
でないと、アタマが冴えないらしい。
ちなみに「トビッキリ」という言葉も、ハカセが教えてくれたさじ加減の難しい言葉。
具体的な濃さを今まで30回ほど聞いてきたが、そのたびにハカセは「とびっきりはとびっきりだ」としか答えない。
そこで、コーヒーを飲んだ後のハカセの仕事のはかどり具合のデータを過去3年間分分析し、一番アタマが冴えていた「スプーン山盛り3.5杯」を「トビッキリ」の値とすることにした。
ハカセが何も文句を言ってこないため、ボクの考える「トビッキリ」は以来変わっていない。
今日の朝食は、レタスとハムのサンドイッチ、野菜オムレツ、オニオングラタンスープ、ホットヨーグルト、そして、「トビッキリ」に濃いブラックコーヒー。
これらはボクが分析したハカセの健康状態と趣向を組み合わせて考案した献立だ。
健康状態を第一に考えているため、できれば「トビッキリ」に濃いコーヒーも省きたいところではあるけど、「それがないと生きていけない」とハカセが言うので省くことができない。
分析結果からすれば、別に朝食のコーヒーを抜いたとしても命に別状は見られないはずなんだけど(むしろより健康になるという分析結果が出ている)、どうしてもハカセは死んでしまうらしい。
どうやらニンゲンには、アンドロイドのボクが分析できないほどの未知なる可能性が眠っているみたいだ。