99%アンドロイド

***


「___おい、婆さん!どっちに行くんだい!」

「はぇ?」


とある街の中心で開かれている朝市の中、八百屋の店主が一人の老婆に大声をあげた。


「どっちって……あたしゃ家に帰ろうと思っているんだけどねぇ」

「なら尚更そっちに行っちゃ危険だよ。あんた、向こうのイチョウの木陰に住んでいる婆さんだろ?家はあっちだ」


そう言うと八百屋の店主は老婆が向かおうとしている道の反対側を指さした。


確かにそこには、大きなイチョウの木の姿がある。


「あれまぁほんとだ。あのイチョウはあたしの家じゃないか。まったくやだねぇ年をとると。自分の家まで分からなくなってしまうんだから」


そう言うと老婆は腹を抱えて笑い出した。


八百屋の店主があきれた顔をしてその様子を見ている。


「婆さん笑い事じゃないよ。あんたもう100になるんだろ?それでもって一人暮らしなんだから、もっと近所に頼らないと。道が分からなかったらすぐにでも周りに聞くんだよ、……いいね?」

「はいはい、ごくろうさん。さぁて、帰って豆のスープを作らなくちゃ」


老婆はご機嫌な様子で大きなイチョウの木が見える方向へと歩いていった。


八百屋の店主とその奥さんは、不安な様子でその後ろ姿を眺めていた。

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