99%アンドロイド
「困ったわね……。あんなに分かりやすい目印があるっていうのに、とうとう家にまで帰れなくなっちゃうなんて……」
奥さんが腰に手を当ててため息をついている。
「俺たちで協力してなんとか婆さんを見守るしかないよ。あの婆さんはここらでは有名人なんだから、きっとみんな声をかけてくれるさ」
八百屋の店主は老婆の後ろ姿を眺め続けている。
まっすぐに自分の家へ帰って行く様子を確認しながら。
「___本当は、誰かが面倒を見てくれるのが一番なんだがな」
八百屋の店主がそう呟くと、奥さんも大きく首を縦にふった。
「___誰か、いないのかしらね…」
老婆はまだご機嫌に歩き続けていた。
腰を曲げながら時折スキップのような仕草を見せ、肩にかけている淡い水色の布がひらひらと揺れていた。
「今日も天気がいいねぇ」
雲ひとつない青空を老婆は見上げた。
「何かいいことが”降ってくる”気がするよ」
八百屋の夫婦に見守られていることも知らずに、老婆は鼻歌を歌いながらイチョウの木に向かって歩き続けた。