秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

しかし、違和感があった。

あるはずがないものが公衆の面前に出現したにも関わらず、他の招待客は全くの無反応だったことだ。出現と共に悲鳴が上がってもおかしくはない。

観衆の注目は、変わらずアルフォード様と抱きついて泣いている令嬢だ。

赤い風のことなんて、誰も気に留めちゃいない。



これは……他の人には見えてないの?

そして、近くにいる人の衣類が風に煽られている様子はない。

つまり、普通の風ではないのだ。

グッと目を凝らして警戒しながらよく見ると、更なる違和感に気付く。風に乗せて小さな粒子みたいなものがフワフワと浮かんでいた。

赤くて小さな……虫?

まるで、赤い星のよう。



(何、これ……?)

この現象の説明がつかなくて、違和感だけでなく恐怖をも覚える。自分の心拍数がますますドクドクと上がっているのがわかった。

と、同時に不安にもなる。

令嬢の一番傍にいる、アルフォード様の身が心配であった。

アルフォード様は、自分の胸に顔を埋めてしくしくと泣いている令嬢を、混惑しながらも冷静に宥めている。



「ローズ、落ち着いて。落ちつ……」



ーーその時、彼の顔が変わった。
< 107 / 399 >

この作品をシェア

pagetop