秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない




街並みが近付くに連れて、ふと甘い匂いが鼻を掠める。

馬車の窓から見える景色が、一面の畑から、次第に彩られたものになっていった。

小麦の緑から一転、薄桃色や薄紫色の芝桜。奥には、黄色の菜の花畑。

まるで来都した者達を歓迎するように。



領都レディニアは花き栽培が盛んで、『花の都』と言われている。

レディニア産の花は質が良く美しく、貴族らにこぞって所望されるほど。王宮の庭園で咲いている花も、ほとんどレディニア産のものが植えられているらしい。



「うわぁ……」



一面、花。風が吹くと一斉にゆらゆらと揺れて、香りを運んでくる。

そんな光景には、落ち込んでいた私もさすがに感嘆する声が出てしまった。



「ここは、いつ来ても花が綺麗ですね」

「って、前にも来たことあるか?このルビネスタ公爵領に」

「何を忘れてるんですか、お兄様。五年前、お兄様の休暇に合わせて一緒に来たじゃないですか。公爵様に招待されて」

「はて……」



首を傾げるお兄様の様子にムッとくる。

お兄様も、忘れてるんですか?私がこのルビネスタ公爵領に来たことを。
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