秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
ここ、ルビネスタ公爵領の領主であるルビネスタ公爵さまは、私らの両親とは旧知の仲だ。両親に連れられて、幼い頃に何度か顔を合わせたことがある。
金髪の美しい、ダンディなおじさま。だが、そこらのおじさんよりも清潔感もあって、若い頃はさぞおモテになっただろうと思わせる御方だ。
両親が亡くなっても、遺された私たちを何かと気にかけてくれて、社交シーズンで王都に訪れる時は必ず私たち会いに来て、食事に誘ってくれる。
それに、公爵様の長子であるランクルーザー様は、聖騎士団にてお兄様の直属の部下だった。現在は、王太子様の近衛をしている。
そんな縁も続いて、お兄様と公爵様は仲良しだ。
……そのルビネスタ公爵様が、一度私らをご領地に招待してくださったことがあったのだ。
それが、五年前の話。
少し暖かくなった、初夏の頃だった。
私と同じ名前のお花……ラベンダーが、まるで薄紫の絨毯のように一面に咲き誇っていた、あの時期。
『おまえの母さんも、おまえが腹ん中いる時にこの花畑を見て、腹の子の名前を決めたんだ』
ラベンダー畑に連れていってくれた公爵様が、そんな昔話を教えてくれてとても嬉しかった。