秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

「だめ!……あっち行って!行って!」


アルフォード様の近くにふわふわ浮かぶてんとう虫らを、手を大きく振り回してしっしっと追い払う。

私の手が起こす風に煽られて、手の周りからはふわりと逃げるてんとう虫たちだが、アルフォード様からは離れずなかなか向こうに行ってくれない。

数も多くて、あちこちに飛び回る。はっきり行ってキリがない。

そして、再び近付いてきては、虫を追い払い出すという私の不穏な行動に、アルフォード様が顔を顰めているのがわかった。

「……また、おまえか!邪魔をするな!」

あの冷ややかな視線で私を見ては、鬼の形相で私に怒鳴りつける。

……また、あの時と同じ表情。

騎士ともあろう者が、丸腰の女性相手に剣を向けたという誤ちを犯した時と、同じ表情だ。



(アルフォード様……)



《……私は以前。騎士として、してはならない事をしてしまいました》



……あの時のこと、悔やんでらしたのですよね?



《私にはもう、剣を握る資格はありません……》



あの時、ラベンダー畑で過去の過ちを悔やんでいた苦しそうな表情を思い出す。

心が泣いていたーーそう感じてしまったあの切ない表情を。
< 156 / 399 >

この作品をシェア

pagetop