秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
私と同じ名前の花。
私が『ラヴェンダー』となるきっかけとなった、このラベンダー畑。
亡き母が、どんな思いでこの紫一色のラベンダー畑を眺めていたのか、想像しては顔が綻ぶ。
その時、この話を聞いていた……『彼』はこう言ったんだ。
『とても、素敵な話だね?』ーーと。
あの時通り過ぎた、甘くも爽やかなラベンダーの香りを、私は忘れてない。
「……私は忘れてませんよ。この美しい北の都を」
私の名付けのきっかけとなった、あのラベンダー畑も……あの『彼』のことも。
でも……『彼』は、私のことを覚えていなかった。
「そう言われれば、そうだったような気もするな。母上がルビネスタのラベンダー畑からラヴィの名前をつけたという、公爵の話を。何で忘れていたんだか」
「お兄様の場合は、毎日がお忙し過ぎるのです」
聖騎士団の副団長様は、忙殺の日々で昨日食べた夕食の内容すら忘れるほどだから、仕方がない。
しかし、神殿を追い出された私の追放先が、何故このルビネスタなのか。
……神殿側は恐らく、私を神殿から追い出す事が出来れば何処でもよかったし、後はどうでもいいのだ。