秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
学園在籍中?お兄様は学園側に頼まれて、生徒の剣技指導を担当していた時期がある。その時に顔でも合わせたのだろうか。
すると、二人のやり取りを眺めていた公爵様が口を開いた。
「アルフォード、そちらがうちで預かることになったお嬢さん。ランティスの妹、ラヴェンダーだ」
唐突に紹介されて、慌てて席を立つ。公爵様、急すぎる!
「ら、ラヴェンダー・タンザナイトと申します」
ぎこちない礼で拙くなってしまった。
「……ラヴェンダー?」
アメジストのような瞳を丸くさせ、キョトンとしている。
ラヴェンダーなんて変わった名前だから、驚いたのだろうか。
しかし、それは一瞬で。彼……公子様は、そんな私にニコリと笑いかけてくれた。
……あの時と、変わらない笑顔で。
「初めまして、ラヴェンダー嬢。アルフォードと申します。タンザナイト伯の妹である貴女を、ここで預かることになったと父から聞いています。どうぞよろしく」
「……は、はい、よろしくお願いします」
一瞬固まってしまったが、すぐに我に返って頭を下げる。
(……初めまして、かぁ)
やはり、彼は私のことを覚えていなかったのだと。
『あの時』以来、改めて身に染みてしまったのだった。