秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

「……」

「危機を感じて箝口令を敷いたのだが、王宮に鼠が潜んでいて、間に合わなかったようだ。君らには本当に申し訳ないと思ってる」

「いーや。【魅了】が解けたばかりの混乱した頭で、ここまでの的確な指示を出した殿下には申し分ない範囲だと思いますがね」

「ありがとう、ファビオ。……それで、この推測は一か八かのヤマではあったが、神殿内に潜んでいた毒物混入の犯人は、ランティスが捕まえたよ」

「えっ……」

公爵領でもその話はファビオの口から聞いていたが、何度聞いても驚かされる。

毒殺犯を確保した……という話。しかも、お兄様が。

グッと息が詰まったまま、絞り出すようにその答えを求める。

「だ、誰がっ」

「……アトレイという神官をご存知かな」

「あ、アトレイ様がっ?!」

意外な名前が出てきたので、更に驚いてしまった。

神官アトレイ様は……肩書きの通り、大神殿勤務の一神官だ。私らとは仕事と食住を、精霊王様への信仰を共にし、それなりの交流がある、少々見目の良い年上の男性神官。

毒殺を企てるような過激な性格でもなく、穏和な御方のはず。

そんな、アトレイ様が何故……?
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